見出し画像

博物館と初恋とディスレクシア

小6の夏休み。
寂れた博物館で、スケッチブックを抱えたイケメン中学男子と出会った。
何かと憎たらしいことを言うアイツ。いけ好かない。別に会いたいわけじゃない。
でも、心とは裏腹に、今日も足は博物館に向いてしまう…

そんな、少女漫画のようなじれったい設定にヤキモキしながらも、ディスレクシアの少女が語る物語に引き込まれる児童書/YA作品だ。(ディスレクシアとは、読み書き障害のことであります。)

『丸天井の下の「ワーオ!」』 今井恭子 著

私は何度かディスレクシアや発達障害への理解・支援のための講座に参加したことがある。
そういう講座などでは、よく「アインシュタインもアガサ・クリスティもエジソンもトム・クルーズもダ・ヴィンチも、そうでした」ということが示されるのだが、なぜだか毎回「うーむ」となる自分に気づいていた。
が、その「うーむ」をうまいこと申し開くことができなかった。

この作品の中でも、自分がディスレクシアであることを告白した少女に対して、イケメン男子が上記の有名人たちの名前をいくつか挙げた。
少女は、「は?そんなこと言われたってなんの慰めにもならないよ!」と反発するのだが、そこで終わらず、「おまえはそういう特別な存在になれよ」だの「頑張れって言っちゃいけないらしいけど言ってやる」だのの心からの叫びのような歯に絹着せぬ男子の言い分に、腫れ物に触るような家族とは違った思いを感じて、少女はなんだかスッキリするのであった。私もスッキリした。

文科省から「合理的配慮」の御達しが出た。
障害者差別解消法の施行も間近。
この作品の少女はすでに、学校において合理的配慮を受けているのだが、配慮されているがゆえの葛藤も描かれている。

ディスレクシア当事者の気持ちや家族のサポートを突っ込んで書き込んでいるし、とても好感が持てる児童書/YAであった。

(✳︎写真の熊は、作品に度々出てくる「かつて博物館とに展示されていた熊の剥製」をイメージしたものです。)

#児童書 #YA #読書 #ディスレクシア