深夜

さようなら、後輩。  ごめんなさい、先輩。

私には付き合っている3個下の後輩がいる。
最初は鬱陶しく正直面倒臭い後輩だった。

しかしご飯に誘ってくれたり、仕事の残業を一緒に終わらせてくれたりした。
2人で時を過ごすうちに、見事に惹かれあった。

彼とは同棲している。

エメラルド色のカーテン
木でできた四角いテーブル
赤い小さな冷蔵庫
白いベランダ

住み心地は良かった。2人で住むには十分だった。

ある日の深夜、彼は言った。

「あの、将来のこと、どう考えてるっすか?」

「将来か〜。あんまり考えてなかったな。」

「僕は先輩とずっと一緒にいたいです」

「なに急に。明日は大雨だな。」

そんなことを2人でベランダを見下ろしながら話した

この街もこの景色も今しか見れない。
街は変わっていく。
その時を今愛している人と刻んでいる。
私は幸せ者だ。

「でも先輩、」       彼が口を開き話した。

「永遠の愛なんてないのかもしれないっすね。」

「え?」

「だって、あんなにラブラブだったカップルも結婚したら変わっちゃって結局離婚とか多いっすよ?子供とかいると尚更。だったら僕は先輩とずっとカップルでいたいです。」

「そっか、」

この日は寝た。2人で背を向けて寝た。

それから1ヶ月後 

私たちは別々の道を歩むことにした。

あの話を聞いて以来、私が冷めてしまった。
彼とはずっと一緒にいたかった。
結婚したかった。
子供もいる幸せな家庭を築きたかった。

でも彼にはそういう気持ちがないことがわかった。

今考えてみるとそうだ。彼は私への執着が凄く強い

連絡は5分以内に返さないと電話が掛かってくる
どこにいるか位置情報アプリを勝手に入れる
LINEは彼以外の男は消された
社内で別の男と話し、帰ると
「先輩は僕のことなんてどうでもいいんすね。」
とベランダに立っていることもあった

別れて正解かもしれない。そう思っていた。

新しいマンションを借りて一人暮らしをしていた。
この生活にも慣れたし、居心地が良かった。
仕事は退職し、今は花屋で働いている。
幼い頃から花屋に興味があったからだ。

ピンポーン

「なにか頼んだっけ」

ガチャ

「え?」

彼がいた。そして私に抱きついてきた。

「先輩助けて。うちのお袋が…」

話を聞くと、後輩の親御さんが事件に巻き込まれ亡くなったらしい。
私も何度かお会いしている。とてもいい人だった。

彼は泣いている。私は背中をさすった。
ベランダで煙草を吸いながら。

彼は朝になると帰っていった。

部屋に戻ると彼の携帯がある。忘れ物だ。
届けようと思い、携帯を手に取ると通知がきた。

美香
「今日は○○にある‪✕‬‪✕‬ホテルで待ち合わせね♡」

最低だ。本気で携帯を投げたくなった。

彼は深夜に元彼女のもとへ来て泣いて帰る。

思わせぶりもいいところだ。

彼が携帯がないことに気づき戻ってきた。

「ごめんなさい。俺の携帯知らないっすか…」

「ここ」

「ありがとうございます。先輩…なんで泣いてるんすか」

私は涙が止まらなかった。
この裏切られたような気持ち。
そして彼を愛していた気持ち。

罪深い男だ。

思わせぶりほど罪なことは無い。
相手の気持ちを揺さぶり、そして殺す。
殺された側はその傷を負って生きる。
殺された心は元には戻らない。
それがトラウマなどになるのだ。

この出来事から
私は彼とは一切連絡を取っていない。
会ってもいない。

私は新しい彼ができた。
その彼はあるBARで働いており、そこで出会った。
そんな彼がある日こう言った。

「ねぇ、これから、どうしていこうか」

「私は2人でずっと一緒にいたいよ」

「俺も。2人で幸せになりたい」

「じゃあ結婚する?」

「しよっか」

深夜0時を回った頃、
2人はベランダで煙草を吸いながらキスをした。

そのとき思わず1粒の涙が出てしまった。
この1粒の涙にはたくさんの思いが詰まっていた。
その思いの中にもしかしたら彼がいたのかもしれない。しかし流してしまった涙はもう消えてしまった。さようなら。後輩。私、幸せになるね。

幸せになってね。先輩。

そのとき先輩は気づかなかった。

後輩のホーム画面が先輩の後ろ姿だったことに。

執着しすぎた愛

深夜、慣れない煙草を吸いながら泣いていた。

じゃあね。先輩。

彼は煙草を吸い終わると   そのまま

ベランダから宙に舞った

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