見出し画像

Vol.6 【ネタバレあり】映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』から不正行為の心理を考えてみた話

皆さん、1週間お疲れ様でした。今週は目の前にいる大切な生徒の受験(検)が多く、毎晩学年の先生たちと業務作業で居残っていたので、本当に大変でした。そんな、精神的にもいっぱいいっぱいになっていた中学校教師のHANABIです!
ちょうど1週間前の投稿では、受験生の皆さんにエールを送りましたが、その翌日に少し残念な出来事が起きてしまいました。「あの出来事」に対して他人事と思うか、そう思わずに自らを振り返ってみるか。これだけで、私たちの生き方が変わってくる気がします。
今回は、タイ映画と新書本から、「人間の欲望」について、いろんな角度から模索していきます。

どうして、受験生は危険な欲に目をくらませてしまったのか?


受験生の一人が、大学入学共通テストの試験中に世界史Bの問題用紙をスマホで撮影し、そのデータを大学生に送ってしまったという出来事。この出来事が発覚してからは、この記事を書いている現在においても、いろんなメディアがお得意の報道合戦を展開しています。
どんな事情があれ、ダメなものはダメ。この前提を崩すつもりはありませんが、普通の精神状態であれば冷静に考えたら分かることを、どうして正常な判断ができなかったのか。この問いを、この数日間ボクはずっと考えていました。
そこで、フッと思い出したのが、以前Netflixで観た映画『バッド・ジーニアス 』(2017年)。

映画『バッド・ジーニアス  危険な天才たち』から思うこと


初めてこの映画と出会ったのは、ちょうど1年前。Netflixではよくある、「あなたにオススメ」で出てきた映画の一つでした。主人公の天才女子学生リンが、ちょっとしたきっかけでカンニングビジネスに手を出してしまうというお話。学生がおかれた心理状況(家庭背景、友人関係、自己肯定感など)が当事者目線で描かれていて、教員という立場からでは忘れがち・気付けないようなことを発見することができます。
ちなみに、これはタイ映画なんですが、実は中国で起きた実話を少し脚色したものなんですね。「手を伸ばしちゃいけない欲望に目がくらむ」ことを、題材にしたこの映画が発信するメッセージは、やっぱり力強いものがあります。
カンニングビジネスの手口は、かなり巧妙です。当然、試験監督者には気付かれない方法・タイミングが用意周到に準備されます。そして、アナログ的な方法から始まって、最後にはスマホを中心としたデジタル機器を使い、かなり大掛かりなカンニングを展開していきます。映画とは言えども、これが実話だと考えると、人間の欲深さには、ある意味感心させられます。

「あの出来事」以降、メディアでは、試験監督者や試験会場のあり方やデジタル機器を持ち込ませることの有無を議論していますが、どの時代でも一緒で、こういった手口は減らないでしょうね、おそらく。かなり昔ですが、こんな映画があったくらいです(安室奈美恵さん、めっちゃ若い!!)。


映画『バッド・ジーニアス』から学べる一つのヒントは、人間がデジタル機器を持ち、その利便性を他に援用できることに気付くと、自分の心をコントロールできないくらいに欲望が増大し、制御不能になりやすいということです(一概にそれが全てとは言えませんが)。利便性が高まることによる人間の欲望の増大。きっと、noteをしているボク自身も同じなんだと思いますが、デジタル機器に自らの身体と心を支配されているのかもしれませんね。

今回起きてしまった「あの出来事」も、おそらくはこういった背景があるように思います。要するに、社会全体に蔓延している見えない病の一つかもしれないということです。

新書本『スマホ脳』から学べること


スマホを持っている生徒の皆さん,そして受験生の保護者のみなさんは,一日にどれだけスマホを触っているでしょうか。
様々な統計データを見ていると、一日に平均して3時間は触っているようです。起きた後や寝る前にやることは,スマホに関わることでしょうか?ボクはYesです。スマホの目覚まし機能で起き,メールやLINEの連絡を確認する。寝る前は,その日にあったニュースを簡単に確認し,充電器をベッドの横において眠りにつく…。そういう感じの生活になったのは,2010年代に入ってからですかね…(=_=)そう,ちょうどスマホを持ち始めてからです。
そういう生活スタイルに何の違和感を持たず,便利な道具を利用するだけ利用するような感じで過ごしていましたが,『スマホ脳』の作者であるハンセンさんの文章でハッとさせられました。

企業の多くは,行動科学や脳科学の専門家を雇っている。そのアプリが極力効果的に脳の報酬システムを直撃し,最大限の依存性を実現するためにだ。金儲けという意味で言えば,私たちの脳のハッキングに成功したのは間違いない。

アンデシュ・ハンセン(2020)『スマホ脳』新潮新書、p.78.

ここでいう「脳の報酬システム」とは,脳内の伝達物質の一つである「ドーパミン」のことで,例えば「もしかしたら~かもしれない」という欲求が強くなることがあれば,まさに「ドーパミン」が出ている状況です。つまり,「依存性」に深く関わる物質ということです。「ドーパミン」がたくさん出るように開発されているのが現在のスマホであり,スマホにボクたちの脳が支配されているのが現状なんですよね。

「あの出来事」は、まさに不正行為を止められなかった欲望と、スマホ脳に深く関わるドーパミンの問題が複雑に絡み合っているのでは?少なくとも、ボクはそう思うのです。

うーん。そうなると、スマホから離れた生活を送るべきなのか?それとも、スマホとうまく付き合っていく方法を考えていくべきなのか。
おそらく、誰にとっても後者が一番最適な選択になるとは思うのですが、まだまだ具体的には思いつきません。学校でも「デジタル・シティズンシップ」が提唱されていますが、何とも…。

まとめると…


今回は映画『バッド・ジーニアス』と新書本『スマホ脳』から、大学入学共通テストの不正行為問題に潜む人間の欲望について考えてみました。
メディアは単純化しすぎて報道していますが、「そもそも論」を見ていかないと、大切なことを見過ごしてしまいかねません。
このnoteを読んでいただいた皆さんにも、ぜひ「不正行為問題」と捉えるのではなく「社会問題の一端」として考えていただきたいです。大人であるボクたちこそ、本質を見抜かなければいけないのかな〜と思います。

受験生の皆さんは、人間の欲望を制御しづらい社会になっているからこそ、少しスマホから離れてみても良いかもしれません(SDGsの目標12との関わり)。今は、本番当日に最大限のパフォーマンスを発揮できることだけを考えて取り組んでください。

来週からはまた大変な日が続きます。この一山を超えたら、違う景色が見えてきますからね!!

*最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

映画感想文

SDGsへの向き合い方

中学校社会科教師のHANABIです!学校教育の現状、中学校社会科の面白さ、自分の生徒・卒業生や全国にいる中学生へのメッセージ、時にはHANABIのプライベートまで、いろんな角度から掘り下げて綴っていきます!!SNS初心者ですが、よろしくお願いします(*^▽^*)