子ども子育て

【2019参院選】15争点で公約を比較してみた【子育て・教育編】

本記事では、JAPAN CHOICE 公約比較 サービスと連動して、15個の争点について、解説を行っていきます! 表だけでは伝わらない、争点の構造や争点をめぐる経緯について各争点1記事ずつにまとめました。15の争点、今回は【子育て・教育】についてです。



1.「幼児教育・保育の無償化」

  この項目の各党の政策は、「現行政策に対抗する態度」だと考えると理解しやすくなります。
  自民党公約にある通り、今年10月から、3~5歳の全ての子どもたちと0~2歳の住民税非課税世帯の子どもたちの幼児教育・保育の無償化の実施が決定しています(1)。これに対しては主に3点の批判があります。

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①一部の子どもたちが無償化の対象になっていないこと(2)、②この政策の財源が消費税の増税分であること、③給食費等が無償化の対象になっていないことです。
   一点目の批判の背景として、待機児童の大多数は0~3歳児ですが、待機児童解消に取り組むための予算を残すために、0~2歳児の低年齢層は全面無償化とはなっていません。
  二点目、財源である消費税に関してです。消費税は国民の所得に関わらず購入額に対して同じ割合の税金を支払います。重要なのは、どの所得の人でも同じ値段物を買えば同じ額の税金を収める必要があることです。つまり、同じ額のものを買った場合、所得の低い人のほうがより負担が重くなる税制度なのです。所得が低いために行きたい学校に行けない人たちを救うための教育無償化、その財源として低所得者にとって重荷の消費増税分を充てるのは本末転倒なのではないか、という批判があります。
  三点目は、幼児教育や保育にかかるお金全てが無償になるわけではないことについてです。例えば、給食に関する費用として、幼稚園、保育所ともに今まで施設利用料に含まれていた副菜(おかず)が実費徴収になり、その上で利用料が無償化の対象になります。


2.待機児童

  待機児童に関して、その数字を減らすという点ではどの党も一致しています。
政府による待機児童解消加速化プランいう政策により、この6年間で保育の受け皿が40万人分確保されました。それでもなお、待機児童数は各年で大きな増減がありません(3)。そこで、さらなる改善のために、各党は大きく分けて4つの施策を掲げています。1.保育士等の数を増やすこと、2.保育士等の待遇を改善すること、3.認可保育所を増やすこと、4.地域ぐるみでの活動の活発化により保育の受け皿を増やすことです。


3.小中完全無償化

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  義務教育下では公立の小中学校の授業料や教科書代は無償となっています。しかし、主に給食費など、それ以外にかかるお金があります。そして給食費に関しては、未払いの問題が多く起こっています(4)。その背景には貧困問題があるとされ、無償化することにより解決を計る考えがあります。ただし、全ての中学校で完全に給食を導入しているわけではなく、選択制の学校もあり、無償化には不平等が生じるという批判もあります。その他にも制服購入費や修学旅行積立金をはじめとした課外学習の費用も無償ではありません(5)。共産党は、それらすべてを無償にすべきと主張しています。


4.高校無償化

  就学支援金制度が改正され、2020年4月から年収590万円未満の世帯には私立高校の平均授業料が給付されるようになります。各政党で対立する点としては、所得制限の枠を撤廃するかどうかです。また、高校無償化が決まる際に、当初は無償化の範囲に含まれていた朝鮮学校を朝鮮総連との関係を理由に対象から除外しました(6)。一般に、教育支援金は公立学校に限らず、インターナショナルスクールなど、外国人学校も含まれるとされています(7)ので、これについても批判の声があります。
  また、授業料以外を支援する高校生等奨学給付金の拡充の有無も争点の一つです。
  与党はおおむね抑制的で、年収制限や私立高校への制限などを設けた上での高校無償化を提示しています。野党は、所得制限のない教育無償化や、外国人学校への適用も求めるなど、おおむね与党よりも広い範囲での無償化を主張しています。


5.その他の子育て・教育支援

  ここでは政策比較表で掲載されているもののなかで、あまり聞き慣れないであろう政策について解説をしていきます。


日本維新の会:N分N乗方式

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  これはフランスなどでも取り入れられ、成功を収めている制度です。子どもが多ければ多いほど、所得税の負担が減るようにすることで、子育て世帯を支援し、少子化に歯止めをかけることを目的としてします。
  具体的に見ていきましょう。次に、図の例で、現状の政策との違いを確認します。年収 200万円の家庭に子どもが3人いたとします。そして所得税を便宜上20パーセントとします。普通に計算すると200万円×0.20=40万円が所得税負担です。これがN分N乗方式だと、200万円➗世帯の人数(この場合5人とする)=40万円と算出され、これを一人当たりの所得とみなします。所得税は所得によって税率が変わるため、先ほどより税率が下がります。仮にここで10%とすると、40万円×0.10=4万円、これに世帯の人数をかけて、4万円×5人=20万円がこの世帯の最終的な税負担になります。世帯の人数が増えると一人当たりの所得とみなす金額が下がるため、総所得は同じでも一人あたりの所得が下がり、所得税率も低くなり、支払う所得税が低くなります。このようにして、子どもが増えても負担にならないようにする制度です。
   しかしながら、子どもが自立した際には所得税が高まることや、所得税自体が少額な低・中所得者には恩恵があまり大きくない一方、高所得者の税額は控除されるのでますます格差が拡大するのではないかというところが批判されます。



立憲民主党:日本版ネウボラを軸に親子をサポート
  ネウボラとはフィンランドの母子支援制度のことで、助言という意味があります。産前・産後・育児を同じ保健師がサポートすることで切れ目のない支援を目指します(8)。専門職のサポーターに常に相談できるためリスクの早期発見、早期支援ができるとされます。虐待で死亡する子どもの4割が0歳児で、加害者の割合の4割が母親と言われるなかで、解決の糸口として期待されています。2018年4月時点で761の市区町村(9)で開設されています。
  しかし、現状の制度ではネウボラだけで一連のサポートをするのは困難です。ネウボラのみで全て済ませられるフィンランドとは違い、現在の日本の制度を前提にすれば、妊婦はネウボラだけでなく、従来どおり病院で健診を受ける必要もあります。これを改革するか、あるいは現行制度を維持するならいかにネウボラをその中に組み込んでいくか。単にネウボラを置くだけでなく、制度的な工夫が必要になってきます。また、職員の人数も確保せねばなりません。医学的知識を持ちつつ、母子に寄り添う精神的なサポートをする人材が必要とされます。


6.児童虐待対策として懲戒権見直し

  昨今、親から虐待を受けた子どもが死亡する事件が相次いでいることがきっかけとなり、懲戒権の見直しについても注目されています。2018年に東京都目黒区で親からの虐待によって5歳の女児が亡くなった事件や、千葉県野田市の小4女児が亡くなった事件は、記憶に新しいかと思います。
早朝から子どもを起こしてひらがなの練習をさせたり、提出したいじめに関するアンケートを学校側が父親に渡してしまうなど、どちらも詳細を知れば胸が痛くなるような事件でした。これらの親の行為は、どちらも児童相談所や学校側がある程度把握していましたが、解決には至りませんでした。その原因の1つとして言われるのが親などの親権者がもつ「懲戒権」です。

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  懲戒とは、「不正・不当な行為に対して、戒め(いましめ)の制裁を加えること」(岩波国語辞典第7版)です。民法822条では、親権を持つ人が子どもの利益のために、子どもの教育や監督保護を目的として必要な範囲でできると規定されています。なお、この懲戒は親権を持つ人の権利でもあり義務でもあります。(10)しかし、この懲戒権やあるいは「しつけ」の名の下で、虐待が正当化されているという問題もあります。

  懲戒権を廃止したら、子どもへのしつけを必要以上に制限してしまうことが考えられます。そもそも虐待は、懲戒権を削除すれば解決するような問題ではありません。システムや各機関の連携方法など、改善すべき点が様々あり、そのひとつとして今回懲戒権が問題となっているのです。単に懲戒権を削除するのではなく、他の法律で体罰としつけを明確に分けることが重要だとする議論もあります(11)。2019年、しつけでの体罰を禁止する政府提出法として、改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が成立し、さらに懲戒権の削除についても、法務省で現在検討されています。これから虐待をどう解決していくか、その一方法として公約でも懲戒権が議論されています。




  いかがでしたか?政策比較表を見る際は、自分の考えに合うか合わないかだけでなく、全政党で意見が一致しないのだから、それぞれの政策には何かデメリットがあるのではないか、逆に自分が良いと思わない政策にも理にかなっている点があるのではないか、などと考えてみてください。そうして自分の考えと、政党の掲げる政策を俯瞰的に検討する視座を得ていただければ幸いです。

  なお、自分の考えと各政党との考えの合致具合は、「投票ナビ」を用いることで把握できます。こちらもぜひご利用ください。

▶︎ シリーズ15の争点 他の記事はこちら



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(1)内閣府「幼児教育の無償化について」
<https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/meeting/free_ed/kanji_2/pdf/s1.pdf>(最終閲覧日7月16日)
(2) 財務省「消費税の使途に関する資料」
<https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d05.htm>(最終閲覧日7月15日)
(3) 朝日新聞「待機児童『見える化』プロジェクト」<http://www.asahi.com/special/taikijido/>(最終閲覧日7月15日)
(4)文部科学省「学校給食費の徴収状況に関する調査の結果について」
<http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/07/__icsFiles/afieldfile/2018/07/27/1407551_001.pdf>(最終閲覧日7月15日)
(5) 文部科学省「義務教育公立学校における無償の範囲」
<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo6/gijiroku/attach/1382320.htm>(最終閲覧日7月16日)
(6)日本経済新聞「高校無償化訴訟、朝鮮学校側が逆転敗訴 大阪高裁」
<https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35819510X20C18A9AC8000/>(最終閲覧日7月17日)
(7) 文部科学省「高校生等への就学支援」
<http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1307345.htm>(最終閲覧日7月17日)
(8)髙橋睦子「フィンランドの出産・子どもネウボラ(子ども家族のための切れ目ない支援)(資料3)」< https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taskforce_2nd/k_6/pdf/s3-1.pdf>(最終閲覧日7月17日)
(9)産経新聞「北欧流子育て支援『ネウボラ』日本で進化」<https://www.sankei.com/life/news/190117/lif1901170014-n2.html>(最終閲覧日7月18日)
(10)「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」(民法820条)、「親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」(民法822条)
(11)特定非営利活動法人 子どもすこやかサポートネット「体罰等の禁止と民法の懲戒権について 」 <https://www.kodomosukoyaka.net/pdf/201708-chokai.pdf>(最終閲覧日7月17日)
その他参考文献
ベネッセ教育総合研究所「『日本版ネウボラ』導入への課題とは~第6回 少子化社会と子育てより 研究員の目~」<https://berd.benesse.jp/jisedai/topics/index2.php?id=4847>(最終閲覧日7月18日)
まんまみーあ「少子化に効きそう!?子供が多いほど税金を免除『世帯課税』導入を検討中」<https://mammami-a.club/?p=21475>(最終閲覧日7月18日)

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