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【文字迷宮】「旅涯ての地」坂東眞砂子

「人生は旅である」とはよく言われることですが、その舵を切ることはなんと難しいことでしょうか。
船を操縦しているつもりが、気づけば木の葉のように流され、大きなうねりを前に呆然と佇む。
そういうことが度々起こり得るように感じます。

「旅涯ての地」
著:坂東眞砂子

発行:1998-11-1
出版:角川書店

2024-3-12 読了

東から西の果てへ、さらに彼方へ<あらすじと感想>


時は13世紀。
主人公、夏桂は東の果てで裕福な商人の子として生まれました。けれど父親が罪を犯し、彼を除く家族は処刑されます。命からがら逃げ延びたあと、大陸へ渡り所帯を持つも妻がお産の中で死亡、放浪のうちに捕らえられ奴隷となり、西の果て、イタリアへと連れて来られます。
しかし果てだと思っていたその地もまた果てではなく、貧富の対立、宗教の対立の渦に巻き込まれながら、さらに「彼方」へと運ばれていきます。
彼は運命に弄ばれるという言葉からイメージされるような弱い男性ではありません。むしろ強い。その場その場で知恵を働かせ窮地を切り抜けます。数々の苦難の中でも彼の「情」も「熱」も枯れることはありません。
ただ行き先を自分自身で決められるほど、この世の波は小さくはありませんでした。
誰もが安らぎを、安らげる地を求めているけれども、それを得ることは本当に難しい。本書の登場人物の多くも、得られぬままに消えていきます。
最後に夏桂が得たものは・・・

荒々しい大波で人生を困難にする海。けれど穏やかな波で幸福感を運んでくれるのもまた、海でした。

<心に残った言葉たち>

人が心底信じることができるものは、
目の前にある現実だけだ。
過去となった旅は、やはり記憶の中で
非現実の覆いをかけられ、
幻の世界へと退いていく。


一度逃した季節は
後から走っても
追いつかない。


決めるということ、
選ぶということはなんと難しいことだろう。
しかし、決めること、選ぶことをしない限り、
人は前に進んでいけない。
旅をしても、それは他人の旅になってしまう。


いいや、この女はそんなことはしない。
まっすぐに立ち向かい、
そして破れたのだ。
だから、ここにいるのだ。


きっと優しい言葉ではなく、
強い言葉が、
言葉ではなく、
優しさそのものが
必要だったのだろう。


二人とも臆病なあまり、
心を壁の中に閉じ込めている。
自分の心は柔らか鶏の卵みたいなもので、
巣から外に出したら、
すぐさま粉々に割れてしまうと信じている。
しかし、そんなことはない。
人の心は鋼よりも強い。


その長い尻尾に誘惑された
天使たちを引きずりつつ
天の国から墜ちていった


私は境の上を歩く者。
どこにも属さない代わりに
境のこちら側とあちら側に引き裂かれ、
東と西のどこにも足を置くことが
できないでいる。
 
彼らもまた境の上を永い間歩いてきたがために
心の還りゆく場所を
どこにも見つけられなかったのだと
思わずにいられない。


魂の尻尾が蝶結びになって、
縛りつけられてしまったのだ。



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