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花との闘い

私が買ってくる生花は、花瓶に入れた途端に下を向く。
揃いも揃ってうなだれ、花弁に包まれた中心部を決して私の方へ向けない。落し物を探しているかのように、熱心に下を向き続ける。
もちろん、試行錯誤はした。なるべく机と直角になるように花柄を花瓶に差し込んだり、少し強引に花の頭をぐいと持ち上げてみたり。
でもそんな私の一方的な熱意など少しも興味がないように、彼らはそっぽを向き続ける。
少しムキになって、強めの息を吹きかけてみた。
花柄のそのしなやかさを見せつけるように、数秒だけ小刻みに揺れた後、また同じ位置で静止した。
お、少しは私に興味が出てきたか?

考えてみたら、私はこの花の名前を知らないようだ。
そして、おそらくこの花も私の名前を知らない。
他人同士。でも同じ屋根の下でこの数日間、いちばん近くで生きている。
お互い、呼吸をして過ごしている。
私が吐いた二酸化炭素を彼らが吸収して、酸素を吐き出すこともあるのかもしれない。その酸素を私が吸う。
これはつまり、私は彼らの一部で、彼らの一部は私?

花がどっちを向いているかなんて気にしている場合じゃなかった。
彼らはもうすでに他人ではなく、「私」になっている。
いつの間にか、私は彼らの細胞にいる。


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