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空想ショートケーキのロッキンホースバレリーナ

彼女は「ちぐ」と「はぐ」を飼っている。愛はないのに浮気調査をしたり、お金がないのにホテル住まいをしていたり、仕事がないのに月給100万のアルバイトを断ったり…

ちょうど2年前に「リップヴァンウィンルの花嫁」という映画が公開された。黒木華主演、岩井俊二監督の作品だ。

公式ウェブサイトよりキャプチャ)

どこにでも居そうな、素朴で心根優しい、主人公。周囲に溶け込みうまくやれているつもりが、ワンテンポずれる。旧友に夜の仕事をやっている、と打ち明けられれば否定も肯定もできずに、その場をやり過ごす。

素直でピュアな主人公は、ちょっと不思議な事件に巻き込まれながら、ちぐはぐな本音と現実を抱えていく。G線のアリアの旋律とともに、当たり前の幸せがするすると手をすり抜ける。滑稽と罵るにはあまりにも痛切で愛しい物語ーー。

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「ちぐ」と「はぐ」は食い違っているのに、同時に存在できるところがいい。映画を見ながら、私の中のちぐはぐをそっと抱きしめた。インスタ映えを揶揄しながらスマホカメラを起動したり、忙しいと言いながらTwitterを開いたり。いいじゃないですか。

お金がなくたって、ケーキを食べたって、いいじゃないですか。

ここは「エーグルドュース」、高級感住宅地・目白でひときわ目をひく洋菓子の名店だ。

濃紫の扉をくぐると、バターやクリームの香りが満ちていて、パティシエたちのピリリととした緊張感がなんとも気持ちいい。

次々と焼き菓子をバスケットに入れて、次はケーキのショーケース。迷わずにいちごと生クリーム、黄色のスポンジを探す。その目は3歳児の私とまったく同じだ。

誕生日はいつだって、いちごのショートケーキ。

けれど、いつの間にかそれはガトーフレーズ、あるいはシャンティーフレーズになった。艶めく響きに、色気が香る。

「エーグルドゥース」のシャンティーフレーズは、甘いフリルのワンピースのよう。純白レースのヘッドドレスに、淡いピンクのリボンが胸に走る。スカートの下にはたっぷりのパニエを仕込んで、さぁどうぞ。

濃紺の台紙はロッキンホースバレリーナと言わんばかりの存在感がたまらない。ぐらつくケーキを全肯定しながら、不安定さも含めて彼女をケーキたらしめる。

いちごのショートケーキ、否シャンティーフレーズは忘れていなかった。ある日の幼女を。そしてフリルを愛した少女を。今は大人びた名前を掲げて、私の前に現れた。

4月6日、またひとつ歳を重ねたわたしは、確固たる名和実咲でありながら、もっと曖昧な何かでいたいと願っている。「エーグルドゥース」のケーキに、『リップヴァンウィンクルの花嫁』。ちぐはぐはきっと空想と現実、虚構とロマンティックを連れて、私を生き延びさせてくれる。

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最後に、心が跳ねてやまないことをひとつ。

冒頭に紹介した映画が好きすぎて、こんな企画をしています。「映画上映会&空想シネマ食堂」です。まだ第二回目だけど、こういう企画が好きすぎてライフワークにしていきたいです。

一番大事なのは、やっぱり「空想シネマ食堂」、つまり食✕作品です。食堂の店主こと(@nanami3131)が作品にインスピレーションを受けて、一皿に物語を再構築してくれる。新しい物語の予感に満ちた、彼女のつくるごはんが大好き。

まだ少し席に余裕あるので、興味のある方はご連絡ください。

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【2018/06/11追記】

イベントは無事終了しました。

イベントレポートをたかななちゃんがnoteに書いてくれました。参加した人たちのぽわんと浮かんだ言葉を彼女の世界から救いあげてくれた、愛しい...!それでは、また会う日まで。


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