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Helter-Skelter

Helter-Skelter

 

「目が覚めた?」

 

ああ、おはよう。努めて冷静に返したつもりだが、内心動揺していた。俺は今寝ていたのか。

 

「そろそろ準備しないと講義に間に合わなくなるよ。朝ごはんも作ってあるから。」

 

準備?終えていたはずだが。朝食も既に食べており、お腹はすいていない。

「もしかして、また現実みたいな夢見てたの?」

 

俺は、冷静に振舞えていなかったらしい。困惑が伝わり、俺の考えも彼女に筒抜けだった。

 

現実みたいな夢を見ていると気付いたのは最近の話。ただ夢を見るだけならよかったのだが、どうにも、俺は夢での出来事と現実を混同してしまっているらしい。というのも、友人と一緒に取り組んだはずの課題が終わっていなかったり、クリアしたはずのゲームが全然進んでいなかったりする事実に気付いてはじめて、夢での出来事だと認識することがほとんどなのだ。

 

昨日は友人と通話をしながら勉強をしていて、お互い翌日の支度も終えた上で通話を切った。と思っていた。

起き抜けの俺の目に映っているのは、無情にも机の上に置かれたままの参考書。朝の支度をしていたのは、夢の中での出来事か。仕方なくもう一度準備をし、大学へと向かった。

**********

「おはよう。またやつれてね?昨日はよく寝れたか?」

 朝の支度をした夢を見た、と伝えると友人は鼻で笑う。

「まだそんくらいで良かったよ。この前みたく、さも友達みたいなテンション感で、全然絡んだことない奴にいきなり話しかけるとかはやめてほしいけど。」

 同じ講義を取っていた人と友人になった、という夢の内容を俺が現実と混同してしまったことをまだ根に持っているらしい。その節はほんとに申し訳ない。眠い目をこすりながら陳謝した。

俺が現実みたいな夢をよく見るということについて知っているのは、彼女とこの友人だけだ。元々の交友関係もそこまで広いわけではないが、この二人の手助けのおかげで、他の人も巻き込むようなことはだいぶ少なくなってきている。眠りが浅いからか、日中に眠くなることはあれど、勉強や考査に大した影響がないのが不幸中の幸いだ。

そうこうしているうちに、講義が終わった。次の講義まではまだ時間がある。今のうちに少し寝ておきたい。

「仮眠しとけよ、今日はいつも以上に眠そうだぞ。講義前には起こしてやるから。」

友人の言葉をありがたく受け取り、仮眠をとることにした。

 **********

「そういやお前、昨日なんで講義休んだんだ?」

講義?昨日は休講の連絡が来たからひとまず寝ていたはずだ。君とも連絡を取ったが忘れているのか、と尋ねると友人はたちまち眉をひそめる。

「休講になんかなってないぞ、……また夢と現実を間違えてるんじゃないのか?」

どうやら、休講になって寝ていた、というのは夢の中での出来事で、事実では無いらしい。他にも混同していることが無いかを確認するため、ここ最近のことを共有することにした。
課題やゲームをしたと思っていたがしていなかったこと、朝の支度をしていたはずが終わっていなかったこと、講義にはさほど明晰夢の影響がないこと、そして明晰夢をみることを知っているのは友人と彼女だけであること、など全てを確認した。

「彼女、って誰のことだ……?いつの間にできた?」

友人のその言葉に、そういえば友人に話したことは無かったなと気付き、同じ大学の同じ学部であることなどを説明すると、またもや眉をひそめる友人。大学にそんな人いないぞ?と続け、本気で心配する声が聞こえる。

彼女の存在は夢の中での出来事で、実際にはそんな人は存在しないのか……?
いや、そんなはずはない。今まで過ごしてきた日々を思い出すことは容易で、顔も名前も、ちゃんと記憶にある。夢な、わけが……

「おい、大丈夫か!?」

ひどく頭痛がする。友人の声も遠くなり、目の前が暗転していった。

 **********

体を揺すられている感覚に、目を開ける。窓から差し込んでくる眩い光に、随分と長い間意識を失っていたことを認識した。

「気がついた?」

透き通った、女性の声が耳に入る。ふと、横を見ると彼女がいた。ああ、やはり夢ではなかった。彼女は現実に存在しているのだ。
確信を持てたことによる安心感から、どっと疲れが襲ってきた。その疲れに身を任せ、もう一度目を閉じる。

思えば、現実みたいな夢を見て、それを現実と混同するようになったのは、ちょうど彼女と出会ってからのように感じる。冷静に考えると、彼女が現実にいるなら、彼女のことを知らない友人は夢の中の存在である、ということにならないだろうか。俺としてはどちらも現実の存在だと認識していたし、今も現実だと信じて疑っていない。

どこまでが夢で、どこからが現実なのか。そもそも俺がいるこの世界は、本当に現実なのだろうか。俺の存在自体も、夢の中のものなのか?

彼女に尋ねようと目を開くと、いなくなっている。まさか彼女は、夢の中の存在なのか?今が夢の中なのか?

考えるのさえ億劫になり、思考を放棄した。

ふと、意識が浮上する感覚がする。

また、夢を見ないと良いが。

そう思いながら、俺は目を開けた。

                     (終)

※こちらの作品は、6月に行われたマルシェで出品させていただいたものになります。後日、物語の解説や私の思いなどを語ったnoteを投稿予定です。
良ければご覧になられてください。

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