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相手にとってのメリットをゴールにする

 顧客企業などに向けて商談やプレゼンをする場合、相手が期待する成果やメリットは明白であることがほとんどでしょう。
 たとえば、「新商品の市場導入を成功させたい」「提携によって収益性の高い新規事業を立ち上げたい」「新規ショップのコンセプトデザインで集客を促進したい」など。
 それでも、表面的な観察では取り違えることもありますし、細部を見落としている可能性もないとはいえません。

 たとえば、一般に自社商品を取り扱ってもらう提案をする場合、上代価格(小売価格)は安いほうがいいと考えるのが当たり前です。この価格を下げるために企業努力をするのだともいえます。
 しかし、その商品が建材である場合はどうでしょうか。取り扱う大手工務店などは定価が高いほうが取り扱う意欲が高まります。つまり、同じ納入掛け率なら安価な商材では利ざやも安い。それでは売る気にならないというわけです。そのため、売価は高く、掛け率は低く、というのが交渉のカンどころとなります。


「顧客の顧客」向けのメリットは提案しない

 同じく建材の例で、キャッチコピーで伝えるポイントを見てみましょう。
 たとえば、床暖房を工務店に扱ってもらう場合、営業資料に「雪の日も、足元からぽっかぽか。赤ちゃんも安心。」などのメッセージを謳ってプレゼンしている業者さんがほとんどです。
 しかし本来は、製品取り扱いによって生じる工務店さんのメリットを次のようなフレーズでアピールするべきなのです。

〈例〉建坪は同じでも坪単価がアップします。

 また、低コストの地下室ユニットを工務店に売るなら、製品を施工してもらう建築主にとってのメリットである「居室の自由空間が増えます」などではなく、次のようになります。

〈例〉他社にはない差別化提案ができます。
〈例〉納入原価は安くても低価格で売る必要はありません。

 あるいは、ホームセンターの本部に商材を売り込む場合ならどうでしょう。バイヤーの狙いは「いかに売場効率を高めるか」です。つまり、希望としては面積当たりの売り上げ高を増やせる付加価値の高い商材で、卸価格は抑えてほしいということになるでしょう。

 一方、ITベンダーが一番理想的と考えるのは、低い価格帯でありながら導入指導料や月々のメインテナンス契約料は高く設定できるシステム品であったりします。

 このように、相手の立場になり切って本当のメリットとなることを突きとめ、フレーズにするのが一番刺さります。
 商流の位置によって、また同じ会社内であっても立場によってメリットと感じるポイントは異なります。相手の注目点、利害の対象を見抜いてアピールするべきなのです。

〈部門で異なるメリットの例〉
 設計担当──スペックは? 強度は? サイズは?
 購買担当──価格は? 最小ロットは?
 生産担当──歩留まりは? 保証期間は?
 経理担当──助成金は? 遇税制は?
 販促担当──画期的? 業界初?


結局、有効なのは人の気持ちに刺さるフレーズ

 私は、下請け工場の販路開拓について支援する機会が多くあります。そのときは「単価を下げて仕事をとるのではなく、顧客企業がコストダウンできる技術を高く売ってください」と指導することがあります。
 納入単価を下げたところで、その価格をくぐる別の業者が現れれば乗り換えられてしまいます。しかし、顧客企業にとって利益率を向上させる技術や設計の提案ができれば、これはカンタンには乗り換えられません。

 また、私は支援先企業にプレスリリースを発信することをおすすめしています。そのときのコツの1つは、「記者の気持ちになる」ということ。こう言うと、担当者さんは「ちゃんと記者さんの気持ちを考えて書いています」と答えてくれます。
 しかし、記者の気持ちとは「この情報を掲載(紹介)したら、読者(視聴者)は喜んでくれるか?」ということなのです。
 あるいは、「長期の休みや人事異動の時期になると手が足りなくなるから、年末や3月末、夏休み前は記事を書きためておかなくちゃ」ということなのです。

 これがわかれば、「プレスリリースは読者が欲しがる情報となるように加工すればいい」という視点を持てます。また、「人手が減る時期の前にプレスリリースを発信すれば採用率が高まる」と応用できるのです。

 セミナー開催のように、必ずしもニーズが1つではない商材の集客をするときにも応用ができます。
 商工会・商工会議所の担当者は、開催するセミナーの集客にアタマを悩ませています。集まりが悪いときには、1社1社、電話をかけて誘うこともあるといいます。
 たとえば、キャッチコピー・セミナーの集客をはかるとき、「販路開拓に有効」というメリットだけでは「今ウチは販路開拓には困っていないのでけっこうです」となってしまうこともあるでしょう。
 しかし、受注に困っていないということは、人手には困っている可能性があります。そこで、次のようなフレーズが有効となるかもしれません。

〈例〉求人でお困りではありませんか? 夢のある企業スローガンで人を採用できますよ。