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芸人さんのようにツッコむ

 最近のお笑いを見ていると、ボケよりもむしろツッコミで売れた漫才コンビが目立つような気がします。特に、ツッコミ担当の芸人が番組MCに抜擢されていくという流れもあるようにも感じます。
 そもそもツッコミとは、非常識な発言やボケ、失敗に対して発動されるものであり、十分に常識がある人の役割です。つまり、ビジネスの現場で求められる当意即妙(とういそくみょう)なコミュニケーション力との親和性がとても高いのです。

 とはいえ、芸人のように鮮やかなツッコミを繰り出すのは難しいのではないか。そうも考えられますが、ある人気芸人さんは、「ボケには才能が必要だがツッコミは誰でも練習でウマくなっていく」という意味の発言をしています。

 確かに、あらぬ方向で発言しなければならないボケに比べて、ツッコミは容易です。誰かのボケや失敗に応じてツッコミを入れればいいのですから。
 こちらでゼロから設定を考える必要もありませんし、自分から口火を切ってスタートしなくてもいいのです。何も思いつかなければ、「なんでですか!」とか「そんなはずないでしょう!」と大きな声を出せばいいだけ。気の利いたジョークを考えなくていいのですから、なんだかできそうな気がします。


ビジネスのコミュニケーションと不可分

 ツッコミを入れる前提は、常識をわきまえていること。たとえば企画書のヌケ、モレをチェックするような心がまえがあれば、いいツッコミができるはずです。
 あなたの周囲で上司や社長、得意先の人が冗談好きであれば、ツッコミは大歓迎されるはずです。漫才風に言えば、ボケ(冗談)とはツッコミが入って完成するのですから。

 そして、誰かのミスを和ませるのもツッコミです。部下の失態を責めながらも、最後は「今度やったらアフリカ支店に飛ばすからな」と国内支店すらない小企業の部長がツッコめば、部下は反省しつつも救われた気分になるでしょう。

 一方、プラスの効果を持つのがホメツッコミです。相手が実績を上げたとき、あるいは自慢をしているときに、少し突き離すようにツッコんでホメるのです。単純にお世辞を言うよりも自然になり、周囲の空気をよくする効果があります。

〈例〉部長の去年の営業成績は、もう伝説モノですよ。

 実はコピーライターの仕事とは、ツッコミそのものということもあります。

 たとえば、開発した企業側が気づいていない、商品の新たな価値を見出す。あるいは、消費者の隠れたニーズをあぶり出したりすることもあります。
 言うなれば、キャッチコピーはツッコミの1行である場合も少なくないのです。

 ある食品の販路について、夕食の惣菜としての市場性ばかりに目をとられているところへ、「これ、ギフトにも最適ですよ」とツッコミを入れる。逆に、進物用を前提とする老舗の珍味に対して、次のようなキャッチコピーを書いたこともあります。

〈例〉ご進物に──はもったいない、自分で食べたい!

 また、ある水産加工メーカーの社長さんが「カマボコの栄養素を改めて訴求したい。上質なタンパク質を摂れるので筋トレ中の人にも注目されているくらいですから」と希望を述べたこともありました。このときは、「筋トレに効くのか!」とツッコミを発動させ、次のような1行を提案しました。

〈例〉魚が、肉になる。

 支援先企業の打ち合わせで社長が冗談を言ったときにツッコんだことがありました。社員は笑うのみで社長にはツッコめないので社外の人間の出番です。

〈例〉社長「昔、不具合があるって呼ばれて行ったら、ウチの製品じゃないんだよ。だから本体を付け替えてウチのルートセールスに乗せちゃったんだ!」
 私「それは乗っ取りですね!」

 ツッコミは練習でうまくなると、先に述べました。日頃から、テレビ番組を観ながら出演者にツッコミを入れる練習をするとよいと思います。第1章で、3人目のコメンテイターになる練習について述べましたが、ツッコミもまったく同じです。

 軽いツッコミは、いわば相づちの延長のようなものです。コツは、より具体的にすること。たとえば次のように。

〈例〉あなた「企画書は?」
   部下「準備中です」
   あなた「飲食店か!」→「やる気のないソバ屋か!」

 ツッコミにはいくつかパターンがあります。ただ、私たちは修行中の芸人さんではありませんから、これらを網羅する必要はありません。ツッコミの練習するときの参考にしてください。


〈ツッコミのパターン〉

訂正ツッコミ……相手のボケや冗談、ミスを正す指摘をする
〈例〉「8月がこんなに暑いんじゃ、12月には大変だぞ」という上司に「そんなワケないでしょ。ほどほどに寒くなりますよ!」
疑問ツッコミ……相手のボケやミスを疑問形で確認する。
〈例〉電話で名乗らない部下に対して「キミ、オレオレ詐欺の人じゃないよね?」
ノリツッコミ……相手のボケなどにいったん乗っておいてから否定する
〈例〉「太ったのでは?」という指摘に「そうそう、エレベーターに乗るとすぐブザーが鳴るって、そこまで太ってないわ!」
たとえツッコミ……相手のボケなどに具体的な例示をして広げて否定する
〈例〉ホメていたのに急にダメ出しに転じた彼女に「スイーツ食べてたら下のほうカレー味になってるし」
無視ツッコミ……相手のボケなどに、あえて反応をせず流す
〈例〉意見があると言いながら「……」と絶句している相手に「はい、次の人どうぞー」