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《First編》[1]2004秋①アジア1の歓楽街

「亜依、終電で新宿にきて。案内してあげるから楽しもうよ」サークルで仲良くなった沙耶からの誘い。興味のあった私は快諾した。
京王新宿駅の改札を抜けて、構内からJR新宿中央東口への道のりを人の流れに乗ってやっと中央東口へと辿り着いた。
新宿に来るのは上京してから何度目か片手で数えられるくらいだ。まだ、この夜の人の多さに私は慣れていなかった。改札を出て、左方向へ進むと[歌舞伎町方面]という矢印を発見し、階段を登っていくと待ち合わせ場所の交番横に着いた。

9月も中旬だというのに、まだ残暑が残りなんともいえない生暖かさに包まれているようなそんな夜だった。
初めて私が夜のこの街の顔を知ったのは…。

大学2年生の秋、私は歌舞伎町に足を踏み入れてしまった。軽い好奇心で。この街にはハマらない自信はあった。上京と同時に私は「東京は怖い所だから騙されない。貢がない。」と誓いを自分の中で立てていたのだ。それなのに。そんなもの、すぐに崩れ去った。

待ち合わせ場所に、沙耶の姿はまだなかった。しばらく私は交番の向かい側のガードレールに寄りかかりながら人並みが溢れて途切れることのない駅への入り口をぼんやりと眺めていた。と、その時バッグの中で携帯電話が鳴りメールが届いたことを知らせる。沙耶からだ。

「もう少しで着くから待ってて。ごめんねm(_ _)m」

「大丈夫だよ」と返信した私はその言葉とは裏腹に早く沙耶と合流したかった。一人で駅前にいるのはまるで場違いみたいで気がひける。しかも待ち合わせ時間より数分前に着いてしまっていたのでかなりの時間駅前にいる。一人で大都会、それもアジア1の歓楽街と呼ばれる新宿の歌舞伎町近くにいると変な不安と緊張感があった。

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