水曜日の本棚♯2 写真集「島の美容室」

那覇に行こうと思い立ったのは、福岡の冬のどこまでも続く曇天模様にいい加減耐えきれなかったからだ。東京のひとが抱きがちな九州のイメージとは異なり、福岡の冬は日本海側の気候に近く、どんよりとした憂鬱な毎日が続く。

唐突に思い立って出かけたひとり旅の最後の日、プラプラ歩いた国際通りのアーケードの一角にお店を構える小さな小さな本屋さんで見つけたのがこの写真集だった。

◆◆◆

人口約400人の沖縄の離島、渡名喜島。何年も美容室がなかったこの島に、いまでは月に10日だけあいている美容室がある。地元・茨城県でお店を構える美容師の福田さんは、2007年から毎月この島まで通ってひとりで島のおじぃ、おばぁ、子どもたち...老若男女の髪を切り続けてきた。

「気は若いですよ。だから髪整えてお洒落もするんです」と花柄のサンドレスを着て微笑むおばぁ。

じっとカメラを見つめる日に焼けた表情で、海とともに生きた年月を語らずとも語るおじぃ。

―いい人生を生きているひとは、こんないい表情になるのかな。わたしは、こんな表情ができるかな。ページをめくりながら、なぜか胸につきつけられるものがあった。こんなにも穏やかで、ゆったりとした島の時間を感じさせる写真たちなのに。

半径1km内においしいコーヒーが飲めるカフェがなければイライラし、夜中でもふと思い立っていけるごはんどころがなければ嫌で、本や映画に触れたいだけ触れられる街じゃなきゃ住めないと思うわたしも、心のどこかでとても憧れている。

天気がよければ外で仕事をし、暑すぎれば休む。波の音が身近にあって、夕涼みにみんなで繰り出す。わかっているのだ、1週間も過ぎれば飽きてしまうことも。でも、ときどき本当に、なぜ自分はそれができないんだろうといぶかしく思う。「人間」というより「動物」に近い部分の「わたし」は、確実にそういう場所を、求めているというのに。

月に10日間だけ、本土から島にやってくるという美容師の福田さんのことが、だからちょっと羨ましい。自分の腕で仕事ができて、島に待っているひとがいて、きっと訪れる度にリセットして、日常に戻れるのだと思うから。

※追記:10年間、島の美容室を続けた美容師の福田さんが、2017年3月の営業を最後に諸事情により勇退されることになったそうです。おつかれさまでした、きっとたくさんの方が寂しくなりますね。

#コラム #書評 #コンテンツ会議

---------------------------------------

「写真集 島の美容室」写真・文 福岡耕造 2014年(有)ボーダーインク






この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

旅をすること、本を読むこと、誰かと話すこと、子どもと過ごすことが創作の源です。いただいたサポートはそのどれかのために大切に使わせていただきます。

ありがとうございます!読んでいただき嬉しいです。
13

Mika Sudo

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。