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正々堂々と勝ちたい。それが駄目なら、正々堂々と負けたい。

藤井棋聖が王位を奪取し、藤井二冠になりました。

社用携帯にニュース速報が入り、思わずデスクで「えっ!」と声を出してしまいました。周りの同僚は将棋に興味がなく、しーん。うずうずしながら帰ってきて、追っかけ放送を見ながらこのnoteを書いています。

私は、棋聖戦の挑戦者決定戦から将棋を見始めた、にわか初心者です。タイトル戦を追いかけるのが精一杯で、将棋の世界は知らないことだらけです。

そんな中で真っ先に好きになったのが木村王位でした。
話が面白い。王位戦挑戦者リーグの解説での「(みんな強いから)みんな負けたらいいと思います」という率直すぎる一言を聞いた瞬間から大好きになりました。
そんなふうに飄々としながらも常に相手を立てるトークが素敵です。Abemaビデオで見た「瀬戸将棋まつり」でも藤井さんと対局し負けていますが「空気を読んだとかではなく、一生懸命指して負けました」とおっしゃっています(※瀬戸市は藤井さんの地元)。相手をふふっと笑顔にさせるようなユーモアのあるトークは、一度聞いたらファンになるよりほかありません。

王位戦では、木村王位の「負け」が四度ありました。

終局後には「感想戦」があります。感想戦とは、対局者二人で行う振り返り会のようなものです。
負けた後にその道筋を辿るのは、苦しいことなのではないかと思いきや、実際の感想戦の様子を見ると、あーでもない、こーでもないと語り合う様子は楽しそうに見えました。
でも、今日の様子を見て「楽しそうに見せる」のも木村王位の気遣いだったのだな、と思いました。

タイトル防衛失敗という「結果」が出てしまった今日、木村さんの受け答えはいつもより少しだけそっけなく、少しだけ言葉少なでした。その少しだけの差異に、普段の気遣いと、今日の悔しさがにじみ出ているように感じました。


木村王位の凄いところは、毎回の対局前インタビューで「準備をしてきました」「普段通りです」と答えられるところだと思います。木村王位が体力づくりのためにジョギングを習慣にされていることは有名ですが、日々鍛錬を積み重ねて、鍛錬が習慣になっているのが言葉から伝わってきます。積み重ねた努力の上で、敗北したとしても、相手に気遣い、配慮ができる。

こういう人になりたい、と思いました。

努力して、努力を習慣にして、それで勝てるなら素晴らしい。勝てるなら勝ちたいです。しかし、勝負である以上一方が勝ち、一方が負けるのは当然のこと。
だから、努力して、努力を習慣にして、勝てないならば、正々堂々と負けたい。

「正々堂々」は相手に対してでもあり、それ以上に自分に対してでもあります。

「準備をしてきました」「いつも通りです」と言える時点で、それ自体が最高のゴールなのではないかと思います。こんなことを言ったら怒られるかもしれませんが、勝ち負けは余禄(おまけ)で、「正々堂々」のゴールに立つこと自体が、人としての目指すべき場所である気がしています。

小野不由美先生の「十二国記」に、こんな一節があります。

「(中略)報われれば道を守ることができるけれども、報われなければそれができない。ーそういう人間をいかにして信用しろと?」
『黄昏の岸 暁の天』より

勝ち負けよりも、正々堂々と負けられる人で在りたい。

そんなふうに思わせてくれた、今年の王位戦でした。


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