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ロバとの別れ


結婚しないなら別れる、と押し切ってついに結婚の約束をさせお互いの家族に報告までした私たちは、その後結局別れることになった。一緒に暮らし始めてから1年近くがたっていた。
 
別れることに決めた原因はいろいろあるけれど、最も大きなこと、そしてここまで来るずっと前にプライオリティを置くべきだった問題はセックスレスだった。
 
ロバ(ボーイフレンド)と私は根本的にセックスの相性が悪かった。これはもう最初からわかっていたことだった。多分彼も感じていたのか求めてくることはあまりなかった。私はこれを性欲が弱いタイプなのだと解釈し、浮気のリスクが少ないのはいいことだと思っていた。というよりも思うようにしていたのかもしれない。これは元夫が性欲の強いタイプで結果的に浮気されて離婚に至ったという経験から来ていると今にして思う。
 
ロバとの付き合いは年月を重なるにつれてさらにセックスレスになっていった。友達には、年をとれば性欲はなくなるのだから、このままでもいいんじゃない?とアドバイスされた。いやいやいや、私はまだ30代後半。性欲がなくなる年齢まで先は長いのだ。
 
それでも、6年もの間一緒にいた心地よさをセックスレスのために捨てる気にはなれなかった。
 
そんなことをうつらうつら考えていた時に、仕事先である人に出会った。彼は私が担当している市場のクライアントのひとり。会議で名刺を交換したあとしばらくしてプライベートで話がしたいという連絡がきた。彼は子供が生まれたあとに1年以上も完全にセックスを拒否するようになった奥さんとの関係に悩んでいた。なぜ私に連絡してきたのだろう。どこかで私も欲求不満オーラが充満していたのだろうか?

彼との頻繁なメールのやり取りが続くようになった。それはつらいよね。実は私もボーイフレンドとのセックスレスで悩んでいるんだ。彼との会話はすごく秘密っぽくて盛り上がってしまうやり取りだった。欲求不満がほとばしっている内容だった。彼の方はもうやる気満々で今すぐにでも会ってやろうよ、よかったらうちの会議室でこっそりやるのはどう?会議室予約しておくよ。などど言い出した。(そのころ私はまだ週に数回にオフィスに出勤しており、彼のキャンパスはうちのオフィスのすぐ近くにあった)
 
これはまずい、と私は思った。これ以上セックスレスの関係が続いたら、私は間違いなく浮気をしてしまう。これから長く続くであろう結婚生活なのに、最初からこんなことでうまくいくわけはない。

他にも問題はあった。彼は基本的にコントロールフリーク。全てを自分のやり方で進めようとした。どんな絵を壁に飾るか、どんな家具を買うか、例えば棚の中にどうやって食器の片づけかるかといった小さなことまで自分流にしたがった。別々の家に住んでいるときは気にならなかったことも一緒に住むとなるとどんどん目についていく。
 
ついに私は別れを切り出した。ロバの方も別れた方がいいと考えていたみたいだった。
 
付き合って7年目に入ろうとしていた夏に私たちは別れた。一緒に住んでいたところのすぐ近くに部屋がみつかったので、ロバに手伝ってもらって引っ越しを終えた。ぐちゃぐちゃのケンカ別れではなく、平和的な別れ。まるで一緒に住んでいた兄の家から一人暮らしを始めるために引っ越していくような気持ちだった。別れてから何年もたった今でもロバとは時々連絡を取り合っている。
 
ロバが帰っていった部屋に一人座って、ああまた一人になったのだなあとしみじみ思った。あの寂しい、でも少しだけホッとした瞬間を忘れるとこはないだろう。
 
でも人生は本当に面白い。あの時はまだこれから数年続く想像もしてなかった毎日がくるなんて、考えてもみなかった。変わるときは痛みがともなうけれど、そのあとはおもちゃ箱をひっくり返したようなわくわくすることが待っていてくれこともあるのだ。

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