4年ぶりに人前で演奏したら、中学生の素晴らしさに驚いた
昨日、近所の中学校で演奏してきた。
私は今月から、上福岡フィルハーモニー管弦楽団(上フィル)でお世話になっている。担当楽器はファゴットという木管大型楽器。
上フィルでは毎年、主に市内の中学校の「音楽鑑賞会」に呼ばれて演奏を行なっていた。
「音楽鑑賞会」とはいえ、久しぶりの舞台。体育館にあらかじめ並べられたパイプ椅子を、後ろのトロンボーンを気にしながら少しずらして座る。
今時の中学にはエアコンが付いているようだ。ぜったい暑い、と踏んでいた体育館は、業務用クーラーでひんやり冷やされていた。団員たちは体育館に入るなり「よかった〜」「嬉しい!」と繰り返す。本当に、大変ありがたい。
ところで私は、中学生はオーケストラを聴かされてつまらなくないのだろうか、と心配していた。
私が中学のときも少なくともこのような鑑賞会はあった。けれども、大抵みんな寝てるか喋っているかで、ちゃんと参加していた覚えがない。
聴かれなくてもまあしょうがないよね、という考えは、ものの1時間後に覆される。
「光栄です」と中学生に言われて驚く
演奏会では、吹奏楽部の生徒と一緒に演奏する機会があった。
リハーサルで初めての合わせ。私の隣には、クラリネット担当の女の子が座った。
簡単にお話をする。
「この楽器知ってる?」「いや、見たことあるんですよ!何だっけなあ……」「ファゴットっていうんだよ」「あ!そうだファゴットだ!」
少し打ち解けたところで合奏が始まる。たくさん練習したのだろう、女の子の譜面には書き込みが多くされていた。
合奏を終えて、女の子が少し興奮したように笑顔で話しかけてくれた。
「オーケストラと一緒に演奏ができるなんて……本当に光栄です!!」
光栄です?!中学生に光栄ですと言われてしまった。
「あなたどこでそんなことば覚えたの(笑)」と笑いながら切り返した。ここから私の思い描いていた「中学生像」が少しずつ変わっていく。
聴き手の姿勢に奮い立たされる
リハーサルを終えて各々音出しをしているところに、中学生がぞろぞろと体育館に入っていく。楽しそうにがやがやおしゃべりをしながら、決められたパイプ椅子に座る。
チャイムが鳴る。懐かしい、学校のチャイム。
と同時に静まり返る生徒たち。前に立つPTAの人がマイクを手に取り、始まりの挨拶をする。
みんなちゃんとしてる……!
前からざっと見渡しても、喋っている子や動いている子は1人も見当たらなかった。
余談だが、この中学校は至って普通の市立中学だ。私の同級生も多くこの中学に通っていたが、あまりいい評判は聞かなかった。
態度があまりにも素晴らしすぎる。こちらも本気にならなければ、と、一層演奏に気合が入った。
史上最高に楽しんでもらえた演奏会
演奏中も生徒たちは真剣に聴いてくれて、曲が終わるたびに割れんばかりの拍手を送ってくれた。
特に盛り上がったのは、「指揮者体験」。生徒がオーケストラの指揮を振れる体験だ。
指揮者の先生が「やりたい人!」と生徒に声かけると、次々と手が上がる。
その度に ワッと会場が笑いに沸き、先生との即席じゃんけん大会に勝った人が前に出てくると、また拍手と笑いに包まれた。
ものすごい生徒の一体感。こんなに楽しんでくれた演奏会は過去にあっただろうか。
すっかり会場は温まり、またオーケストラだけの演奏に戻ると静まり返った。
「卒業」がない初めての楽団
演奏会後の打ち上げで、指揮者の先生に「オーケストラの何が楽しい?」と聞かれた。
「ひとりじゃないって思うことですかね」
笑われた。他の楽器は2人以上いる中、今回ファゴットだけが1人だった。別にそれの皮肉を言っているわけではないが。
誰かの音と合わさる感覚。指揮者によって、演奏者によって、同じ曲でもまったく異なる音楽になること。ひとりでは作り上げられない、でも、ひとりも欠けてはいけない。そんなオーケストラが大好きだ。
ちなみに上フィルは創立から今まで、ファゴット団員がいたことはなかったそうだ。つまり、私がこの楽団の初代ファゴットになってしまった。
部活やサークルとは異なり、社会人楽団には「卒業」という括りがない。
つまり、団が存続している限りずっと在籍できる。
演奏することでまたあんなに楽しんでもらえるのであれば。
「中学のときにオーケストラを聴いて、楽器を始めました」なんて言ってくれれば。
団の繁栄に、聴いてくれる人の心を豊かにすることに、これからずっと貢献できるのだと思うと、楽しみでしょうがない。
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