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長靴下を履いた模様の猫に転生したんだが、カバラがいない件

※マグネットさんの所の「喋る猫」のお題イベントに出した四千字程の短編です。笑ってもらえたらいいな(笑)。初めて書いた「なろう系転生もの」になります。移行し忘れ分持ってまいりました。色々言われますけれど、テンプレに、運営に叱られない程度のお色気を入れて、などなど、お約束が多く、なろう系ってチャレンジすると難しいです……。

※お題「喋る猫」
https://www.magnet-novels.com/events/neko


 吾輩は、山田ハナである。猫名はまだない。

 と、お決まりの文言で始めてしまったが、転生前は32才、バリバリ働くOLだった。でも一ヶ月前、営業回りから帰社途中、気まぐれで横断歩道に飛び出した子供を庇い、見事トラックに轢かれ打ち所が悪く死んでしまった、らしい。って自分の事なのに曖昧なのは、その時の記憶がないからだ。ドーンという音と共に、身体中に衝撃が走り、あ、コレヤバいやつだ、と思ったら意識を失ってしまったのだ。

 そして次、目が覚めた時には、最近流行のお決まり通り、目前に女神が立っていた。しかも双子。さらに髪の色が赤と青。加えて初対面にも関わらずいきなり姉妹喧嘩を始める駄目神《駄女神》。あー面倒なことになるぐらいなら、気持ちよくスッキリ死んだ方が良かったなーと、死んだ目(まあ、もう死んでるんだけど)をしていたら、それに気づいた奴等は急に取ってつけたような威厳のある声でこう宣った。

「ある物語の世界で、憐れな身の上となったままの『カバラ侯爵』を助けてくれたら、元の世界に戻してあげ……ないこともない、んだけどなあ」

 事情はこうらしい。双子の女神は、物語の神様で、奴らが管理する多くの物語の一つが、不幸にもエタってしまった。その主人公である、魔王に国を追われ、憐れな身の上となった『カバラ侯爵』とやらを、勇者にしたてあげ、魔王を倒し、スカッと気持ちいエンドに到達できたら、生き返らせてやる、と持ちかけてきたのだ。いくら私が生前、教材を販売する会社で営業していたとはいえ、あまりにも無茶ぶりがすぎる。自社製品に勇者を教育するための通信教材などある訳ないだろ。アホか、とっととあの世に送れ、と抗議するも、なんかその後あーだこーだ言われ、それに反論してるうちに、再び意識を失い、気づいたら。

 ……茶とら猫になっていた。しかも足のところが白で靴下を履いたみたいな奇妙な模様のとら猫。ち。……三毛が良かったのに。やれやれだぜ。

 しかもチート能力は「かわいいは正義」。思わず撫でてしまいたくなるほどの愛らしさ、らしい。そんなの魔王討伐の役に立つとは思えない、生き返らす気0だろ、ふざけんな!

 でもなってしまったものは、しようがない。仕事にかまけて恋もせず、享年32才で死ぬのはあまりにも無念だ。葬式開いても、行きつけのオカマバーのママや飲み仲間しか来ないだろうし、なんだかそれも親にも申し訳が立たない。ガタイのいいオカマ軍団が葬式に押しかけてくることも問題だが、それ以上に32才でまともな恋愛をしていない。これは大問題である。勿体ない! 鳴呼! 死んでしまった今思えば、非常に勿体ない! なぜ仕事とアルコール等に時間と金を注ぎ込んでしまったのだ。次生き返ったら、せめてオカマバーでなく、ホストクラブにドンペリを飲みに行こう!

 じゃ、いっちょ、死んだつもりで(まあ、死んでるんだけど)やってみますかニャ! と降り立った街でカバラを探すこと一ヶ月。

 カバラがいないのニャ! 探しても探しても見つからないのニャ!!

 ってか助けて欲しいなら、カバラの目の前に転移させるとか基本だろ、機転をきかせろよ! と心の底から文句を言ったが、出る言葉はニャー、ニャーという猫の鳴き声だけ。どうしようもない。あいつらダメ神だったからなあ、諦めるしかないのか。

 というわけで、カバラを探す、という名目の元、この誰かが書いた物語の中の、海の孤島にある港町で住人に構ってもらいながらの自由気ままな野良猫ライフを満喫してしまっているのですニャ。

 この港町はよくいうところのナーロッパ、もとい、中世風の街並み(語彙力死亡)をした、地中海っぽい住みやすい気候をしているのニャ。ほとんど元いた世界とそっくり。一つ違うのは、月が二つあり、夜はだいぶ明るい、ということだけニャ。雨もそんなに降らないし、漁村だから港町にいけばいくらでも魚を恵んでもらえるのニャ〜ン。夜はとあるレストランの裏に用意してもらった箱で寝て、朝は港で漁師に小魚のおこぼれを、昼は公園で散歩中の老夫婦にパンを恵んでもらい、夜はレストランの残り物に預かる。そんな毎日を繰り返しているうちに、すっかり猫トイレもマスター、猫じみた振る舞い、語尾がいたにつき、転生前の自分、全知全能の霊長類、ヒト科の山田ハナであった記憶はかすみ、そもそも転生なんてしたのかニャ? などと使命も曖昧になり、すっかり猫化してしまったのニャ。

 でもなんだかそれもいいかニャーなんて、思ったりもして……ニャハハ。

 そして今日。珍しくこの日、港町は朝から雨だったのニャ。仕方なくレストランの裏の箱で寝るしかなく、おかげで夜になる頃にはハラペコになってしまったのニャ。夜になってからやっと雨が上がり、雲間から月の光が差し込んできたところで……お待ちかねのレストランの主人のママさんが出てきて、山盛りの客の食べ残しを置いていってくれたのニャ。ヤッター! 早速いただきます、なのニャ! にゃ〜んとないたその時。

 突然頭上に影が差し掛かったのニャ。

 それと共に鼻がひん真がるような悪臭。ものすごい長い間まともに風呂に入ってないヒトの臭い。たまらない、たまらないのニャ! 猫になって鼻が効くようになったから余計たまらないのニャ!

 せっかく美味しくご飯をいただこうとしてたのに、何事ニャ! 邪魔をすんなフー!!

 怒ると反射的に背中の毛が逆立つ仕様になってしまった。その状態で見上げると、そこには思った通り。浮浪者がいた。

 ボッサボサの灰色の髪に、ボッサボサのひげ。ボッロボロの黒い服、老人かニャ? どこから湧いて出たこの浮浪者。そいつはボサボサの長髪のせいで顔は見えないが、目線は自分のエサにあるらしい。匂いにつられて出てきたのに、違いないのニャ。いたいけな小動物から餌を取り上げるとは、なんたる愚行! 横暴極まりない卑劣漢なのニャ! アクアパッツアの頭と目玉の部分は渡さないのニャ! 私はありったけの怒りを込めた目と鳴き声で、威嚇した。

 このエサは、自分のニャ! 朝から何も食べてないのニャ! お前なんかにあげないのニャーー!!

「あ……ごめんね、君のお夕飯だったんだね……」

 はニャ? 薄汚い毛玉が発したとは思えない柔らかく、優しい声がして、一気に毒気が抜かれてしまった。浮浪者が発した声だったのかニャ? 首を傾げ見上げていると、毛玉から手が伸び、自分の方へと薄汚れた手が……ひぇええ、迫ってくるのニャ!

「ごめんね。横取りするつもりはなかったんだ。大丈夫。もう盗ったりしないから」

 その手は今まで誰にもされたことないくらい、優しく、柔らかく、私の背中を撫でた。びくっと身体が跳ねる。手は背中、そして頭、そしてお腹へと回り、滑らかに下の双丘《シリ》へと這い……フニャ! なんなのニャ、この官能小説ばりの、ニャンニャンな成り行きと、タッチは! そしてこの胸のドキドキは! ハァハァ……鼻息、じゃなかった、違う、急に鼓動が荒くなる。生まれてこの方、おのこにこんなに優しく身体を触られたことなどない。こ、こんなに優しくされたら……32年振りに《生まれて初めて》、ほ、惚れてまうニャロおおお……!

「昔、母さんが城のキッチンで作ってくれたアクアパッツアの香りにそっくりで……つい、引き寄せられてしまったんだ。さあ、大丈夫だよ、僕は行くから。ゆっくり、お食べ……」

 優しく温かい手がそっと離れた。ダメにゃ! 行かないでニャ! もっと撫でて欲しいニャ! もっと触って欲しいのニャ! 待って……! 待って欲しいのニャ! あとちょっ……。

「ちょっ! 待てよ!」

 え? 気付いたらいきなりキ●ムタクばりに声出てた! 今猫語じゃなかった? ふと見下ろせば、自分の手の指が細く、長くきちんと五つに分かれている。さらに足も生えている。頭を触ると髪が生えている! 死んだ時と同じロングヘアーの黒髪。来ている服は某ジブ●リアニメのヒロインがよく着る白いワンピースみたいな奴だけど、今、私、確かにヒトになってるじゃん! 人通りのない石畳に、人の形をした私の影が長く伸びている。

 驚いて振り返る、浮浪者が髪を上げて私を見た。その目は澄んだ青色をしている。昼の海みたいにきれいな青色。ひどい格好から老人かと勘違いしてしまったけど、彼は年若い、青年だ。私を驚き凝視する彼の背後、雨雲から顔を覗かせた青い月が見える。そして振り返れば私の後ろには、赤い月。そういえば猫に転生する前あの女神がなんか言ってたなー。

『私たちの影が合わさる時、物語の力が奇跡を起こすから』

「君は……」

「私は山田ハナ。猫名はまだない。遠い世界から来たの、カバラ侯爵を救うため」

「カバラ……僕を?」

「侯爵に戻してあげる。一緒に魔王をとっちめよう」

 手を伸ばすと、茫然としたままの彼も、つられて手を伸ばし、私たちは夜の石畳の上で握手を交わした。こうやって近くでよく見てみると……髪を今風に切って、風呂に入れて、髭を剃ったら、超美形じゃん! やっとみつけた私の運命の人。カバラ侯爵。この人のためなら身を粉にして働ける、そしていつか勇者になり、城に戻り、お姫様を迎え……てたまるか! カバラの嫁に、私がなる! そして末永く幸せに暮らしました、エンドに、して見せる! の……ニャー! あ、そういえば現実世界に戻らなきゃいけないんだっけ?? どうしようかニャ〜。ん?

 ニャ?

「あれ? 君は……僕は幻を見ていたんだろうか……」

 妄想から戻ると、月はいつの間にかまた雨雲に隠れ、私は猫の姿になってしまっていた、のニャ。そしてカバラ侯爵に優しく抱き上げられる。(お姫様抱っこでなく、猫だっこなのが残念だが)

「でも、きれいな人だったな……また会いたいな。君といたら、また会えそうな気がするな……」

 優しく抱きしめられたが……臭い、臭いのにゃ! 

「君の名前は……ミーちゃん、そうだ、ミーちゃんにしよう! 神の猫に違いない……!」

 ありきたりな名前だニャア、もっと捻って欲しいのニャって! それはいいけど、臭くてたまらん! とにかくレストランのおかみさんにうまく取り入って引き合わせ、風呂に入らせるのニャ! まずはそれから! 話は全てそれからだニャ!


 こうして私の、影から助ける魔王討伐、物語は始まったのである。俺たちの冒険はまだまだ続く! のニャ

 
 ……続く、のかニャ?(続きません!)

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