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人生も黄昏ちかくなった同人女がなぜ今大学に編入したか

真夜中に目が覚めて、悪夢とともに飛び起き、ああ、あのときあいつを殺しておけばよかった、と思うことはありますか? 
ない? 
きっとすてきな人生を送ってきたのですね。うらやましいです。
私はあります。いまは転職していった上司です。
あまりに暴虐が過ぎて部下たちに「将軍様」と揶揄され、転勤できてあの男の下でなくなることを「脱北」と言われていたあの男を、いまでも機会があれば抹殺したいし、手を汚すほどの価値はないのだから、不幸のどん底でのたうち回っていますように、と願うことがあります。

脱北(転勤)できて、もう五年たち、あの上司は会社内のパワーゲームに敗れて同業他社に引き抜かれていき、すっかり過去のことになったのに、まだあの男の部下として働いた十数年で徹底的に破壊された頭の具合がわるいのです。
わたしの壊れた脳みそは言います。過労死しかかったときに、そのまま死んでたら楽だったね、と。

わたしはおひとりさまです。勤続二十年、貯金ナシ。役職ナシ。ひたひたと不安要素しかない老後が迫ってきている。

人生のいいところはもう全部終わってしまって、あとはひっそり死ぬだけ。

あの将軍様上司に徹底的に自尊心を破壊されたせいで、そういう考えのスポットみたいなのにズボっとはまり込んでしまうことがある。

そしてあるとき、真夜中夢を見て泣き喚きながら飛び起きた私が、何の気なしにつけたテレビでやっていたのが、『ユーリオンアイス』でした。

仕事が忙しくなるまえ、わたしはおたくでした。腐がつくタイプのやつです。残業120時間があたりまえの生活のなかで、すっかり抜け切っていたなにかが、わたしに戻ってくるのを感じました。そう、推しのいる幸せです。その30分のアニメが終わり、エンディングの曲がおわるころ、わたしは墜落するようにヴィクトルが好きになっていました。

わたしがおたくとしてイベントに参加していたころ、創作というのはwebページで公開されており、Twitterは黎明期でした。
ところが、仕事に忙殺されてその世界を離れているうちに、個人サイトは駆逐され、pixivがその世界を席巻していました。土器が発明されて旧石器時代が縄文時代に変わったかのような、それはおおきな時代の流れだったと推測されます。
旧石器時代のおたくのわたしは、すぐに睡眠時間を犠牲にしてpixivにあるヴィクトル関連の創作を読み漁り、そして何十年のブランクをものともせず、ブロマンス的な創作を新文明の利器であるpixivに載せました。その創作は気味の悪いほど閲覧され、翌日の正午には、pixivから「ランキング入りのお知らせ」なるメールを受け取ることになります。
それがどれだけ運とタイミングに恵まれた棚ぼただったか、その時は気がつくこともなく、ただ思い出したのです。「推し」がいる幸せ、そして文をかくたのしさを。
もう、あのとき死んでいればなんてこれっほっちも思わなくなる。だって、いきていれば来週のこの時間に、ヴィクトルを見ることが出来るのだから。

つづきます。

これは人生も黄昏ちかくなった無性愛者がなぜ今大学に編入したかについての独り言です。


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