性欲を原動力に戦う“ジャンプ”の主人公。新たな日本の“ヒーロー像”について
「友情・努力・勝利」
50年間続く人気マンガ誌『週刊少年ジャンプ』では、この3つの要素が重要視されてきた。
この“ジャンプ”に掲載されるマンガ作品は全て、「友情・努力・勝利」のうち少なくとも一つがマンガのテーマに組み込まれている。
長年揺らがないコンセプトがあるからこそ、“ジャンプ作品”は他マンガ誌とは明確に異なる作風を確立していった。
王道マンガ誌に現れた“邪道”マンガ
ジャンプにおける“打ち切り制度”の存在は多くの人が知っているだろう。
「読者からの指示を得られなければ即打切り」
という非常にシンプルかつ恐ろしい制度。
貴重な連載枠を勝ち取ったジャンプ作品でも、多くは1年近くで雑誌から姿を消すことになる。
開始早々に人気を確立したマンガは長期間連載が続くものの、そうでないマンガは短いスパンで他の作品と入れ替わる。掲載作品数には限りがあるため仕方ないが、中々に厳しい世界だ。
2019年の初めから連載開始したとある作品が、異常な早さでその人気を確立した。
その作品の名は『チェンソーマン』。近年のジャンプでは珍しい“ダークヒーロー”ものである。
作品の概要をざっくり紹介
作品の舞台は、人を襲う”悪魔”が蔓延る世界。幼き頃から身寄りがなく、不法に悪魔狩り(デビルハンター)をしてきた主人公の物語。
自身が悪魔に殺されたことをきっかけに、主人公が悪魔と融合して覚醒。
そこに訪れた人物との出会いにより、彼は正式な悪魔狩りとして生きていくことになります。
…この概要だけを聞くと、ありがちな“中二病バトルマンガ”だと感じるかもしれない。
この『チェンソーマン』の魅力は、主人公の“主人公らしくない人間らしさ”にある。
三代欲求を曝け出した、奔放な主人公
作品の主人公、デンジは欲に忠実な人間だ。
デンジが悪魔狩りへの転身を決めたきっかけは、職場の朝メシの内容を聞いたことだった。
悪魔の力で異空間に閉じ込められた際に、デンジは周りの仲間を差し置いて眠りにつく。
そして、デンジが仕事に命をかける一番の理由は、美人上司のマキマにむけた“性欲”である。
「命令を守れば、君の願いを“何でも”叶える」
上司の甘言に思考を溶かされたデンジは、自信の欲を満たすために悪魔と戦っている。
※似た経緯で、同期の胸を揉むことを目的に戦う場面もあった
…50年間培われてきた“ジャンプらしさ”からはかけ離れた、不純な動機を掲げる主人公。かっこよくもヒーローらしくもないが、多くの読者はこの作品に心を奪われている。何故だろう。
きっと僕らは、デンジを羨んでいる
決して“ラッキースケベ”の連続に心惹かれているわけではないだろう。それなら絶対『To LOVEる-とらぶる-』を読んだ方がいい。
『チェンソーマン』の主人公、デンジ最大の魅力は“欲に忠実=周りに縛られない”自我の強さだと考える。
日本における旧来のヒーロー像は、泥臭く葛藤を重ねて仲間とともに成長していく姿に見受けられた。「友情・努力・勝利」という3要素も、“ヒーローを作り出すための基盤”として機能しているのだろう。
『チェンソーマン』の世界では、上記のような泥臭い思想はあまり見受けられない。
主人公のデンジは自分の欲望のままに生きる。上司のマキマも、本性を見せずにデンジのことを飼い慣らし続ける。
作中の主要人物は、全員自分勝手な性格をしているのだ。
長年かけてメディアが創り出してきた“ヒーロー像”も、多様化が発展する時代に伴って変化し始めている。
“しがらみに囚われず、好きなように生きる”
そんな自我の強さこそが、現代の若者に求められるのかもしれない。
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