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ニンジャスレイヤーTRPGソロアドベンチャーをやってみた

諦めていたTRPG体験

以前よりTRPGというものに興味があり、一時はリプレイ動画を見たりリプレイ本を読むなどしていたが、一緒に遊ぶ相手もおらず、また仮にいたとしてもヘタを打って場を白けさせたり和を乱したりするのが恐ろしく、結局自分には縁の無いものだと諦めていた。だからニンジャスレイヤーがTRPGになると知った時も、面白そうではあるが自分とは関係のないものだと考え、あまり気にしないでいた。

だが一月二日、ニンジャスレイヤー公式より一人プレイ可能なソロアドベンチャーが発表された。ソロ・・・それは自分ひとりの戦い。他人に迷惑をかけることもなく好き放題できて安心・・・これにより、自分もTRPGの世界に身を投じることが可能になったのだ。

オリジナルのサンシタニンジャを作る

ニンジャスレイヤーTRPGでは、サイコロを振るだけで無から自分だけのサンシタニンジャを生成することが出来る。早速やってみよう。引き出しからサイコロを引っ張り出し、ブッダに祈りながら振ってみる。するとニンジャが生成された。

【カラテ】:4
【ニューロン】:2
【ワザマエ】:2
【ジツ】:0
【体力】:4
【精神力】:2
【脚力】:2
装備など:オーガニック・スシ

なんともパッとしない数値で、実にサンシタらしくて非常に良い。多少カラテに秀でているものの、ワザマエもニューロンも拙く、ジツも無い。間違いなくレッサーニンジャ憑依者だ。フジキドにあったが最後、アイサツ直後に爆発四散させられること請け合いである。

しかしこのままでは単なるサンシタということしかわからず、どういったニンジャなのかイメージしづらい。そこでこれも公式が用意してくれたニンジャネーム自動生成システムを使い、このサンシタの名前を決めることにする。これも数回サイコロを振るだけだ。結果、「ブルータルシャドウ」という名前が生成された。

ブルータルシャドウ・・・ブルータルには「残忍な」「冷徹な」「横暴な」などの意味がある。ほんの少し強いカラテだけ取り柄のサンシタとしては「横暴な」をチョイスしたい。横暴な影・・・薄暗い路地裏から影のように現われ、モータルに乱暴狼藉を働き、万札や金目のモノを奪っていく。そんなイメージができる名前だ。

ブルータルシャドウとはいかなるニンジャなのか

ステータスも決まり、名前も決まった。ここからこのサンシタ、ブルータルシャドウがどんなニンジャなのか考えていかなければならない。

先ほどイメージした「路地裏からヌッと出てきて狼藉を働く」ことから連想し、装備品のスシは支給品などではなく略奪品ということにしてみる。するとどこから奪ったかということになり、路地裏からヌッと出てきて奪うには相手も路上にいなければならないので、スシデリバリーのバイクなどから奪ったことになった。

しかしサンシタとはいえニンジャがわざわざスシデリバリーのスシを奪うか?仮にもソウカイヤ所属なのに?もっといいスシ食べられるのでは?一瞬そう考えたが、逆に「スシデリバリーを襲うことに執着している」という設定を付与することで事なきを得た。ではなぜスシデリバリーを襲うのか?それには彼の過去に秘密があり・・・

と、このような連想を経ることで、ボンヤリしたサンシタニンジャが、確固たる背景を持ったニンジャ、ブルータルシャドウへと形成されていった。

◆忍◆
◆ニンジャスレイヤーTRPG名鑑#○○○○◆
【ブルータルシャドウ】
路上スシデリバリー強盗を繰り返していたヨタモノにニンジャソウルが憑依。路上スシデリバリー強盗を繰り返す恐るべきニンジャとなった。常にスシを携帯しており、倒せば確定でスシを入手できる。
◆殺◆

さあ、自分の分身であるニンジャが出来た。今こそネオサイタマの闇に飛び込む時だ!

【レガシー・オブ・スシバーグラー】

「ここかァー・・・?」

重金属酸性雨が降り注ぐツチノコ・ストリート。その一角、雑居ビルの前に立つ影あり。影の名はブルータルシャドウ。ごく最近ソウカイヤに所属したニュービーニンジャである。

彼のソウカイニンジャとしての初ミッションは、この雑居ビル内にあるデスシャドウ・ヤクザクランのデータセンター事務所に忍び込んでUNIXをハッキングし、コケシマート社の未公開株件を奪い取ってくることだ。

要はモータル相手のハック&スラッシュである。相手がヤクザであることを加味しても、ニンジャに任せるミッションとしては難易度の低い、子供の使いのような仕事だ。

雑居ビルを見上げるブルータルシャドウ。目出し帽から除く目は険しい。ミッションの内容に不満があるのだ。しかしそれはミッションの難易度に起因するものではなかった。

(クソッ、ヤクザクラン相手かよ。俺はスシデリバリーを襲撃してスシを奪い、幸福な人間を不幸にしたいのに!)

ブルータルシャドウは苛立ち、メンポである目出し帽をかぶり直す。彼は精神が不安定なのだ。彼の装束はモータル時代に強盗であった頃と何も変わっていない。ニンジャになったこと以外、彼は何も変わっていない。目標はただ一つ、スシデリバリーだけだ。

以前の彼はスシデリバリーを狙って強盗行為を繰り返していたヨタモノであり、強盗中にスシデリバリーバイクに轢かれて瀕死になったことでニンジャソウルが憑依した。彼は二度目の生を心から喜び、以前と変わらずスシデリバリーを襲撃し続けた。彼にとってはそれが全てであり、ニンジャになったところで優先順位は変わらないからだ。

そうしている内にソウカイヤのスカウトが現われ、服従か死を迫った。彼は服従した。死んだらスシを奪えないからだ。仕方のないことだったが・・・

「スカウトなど来なければ、今頃はもっとスシを奪えていただろうに・・・ヤクザクランを襲ったところで、スシを奪うことなどできないのでは?」

苛立ちが募る。メンポ越しに頭をかきむしる。よくない兆候だ。彼は精神が不安定なのだ。ブルータルシャドウは懐に手を入れ、真空無菌バイオ笹タッパーを撫でた。中には強奪したスシ、その中でも選りすぐった極上のスシが詰まっている。彼自慢のスシ・コレクションだ。

「フゥーッ・・・」

ブルータルシャドウの目が細まる。ゼンが決まり、ヘイキンテキになる。遥かに良い。このスシは、誰かが注文し、誰かが食べるはずだったスシだ。それを自分が奪った。誰かは食べられない。不幸になる。ザマぁ見ろだ。彼は名も知れぬ他人の不幸を想い、自らの幸福を感じた。

「良い方向に考えろ・・・ソウカイヤは悪い。ニンジャだし、力が強い。つまり、皆を不幸にする。俺がソウカイヤで活躍することで、皆が不幸になり・・・それだけスシが食べられなくなる。皆は不幸で、俺はそれだけ幸福だ。ワカル、ワカル」

彼はスシも満足に食べられないマケグミの人生を送ってきており、スシをデリバリーして食べるような裕福で幸福な人間が許せないのだ!彼にはスシが幸福の象徴に見えており、デリバリーしたスシを奪うことで他人の幸福を奪うことを生きがいとしていた。

彼は知性が著しく低く、スシデリバリーを襲うこと以外で他人を不幸にする手段を想像できない。だが、ソウカイヤが悪く、他人を不幸にする組織であることはわかる。であれば、この組織でのしあがっていくことが、より他人のスシを奪うことになるであろうことは理解していた。

バイオ笹タッパーを取り出し、掲げて眺める。このスシ・コレクションは他人から奪った幸福の象徴だ。もっともっとスシを奪い、いずれはアパートの自室を奪ったスシで埋め尽くすほどにする!

「そのためにソウカイヤでのし上がる!このミッションを確実に成功させてな!」

彼は決意を固め、雑居ビルの階段へと歩を進めた・・・!

(クソッ、ヤクザの警備員だ・・・!スシデリバリー店員ではない!)

事務所玄関前には警備のクローンヤクザが一人。両手に構えたショットガンを威圧的に左右へ向けながら、定期的に床へ痰を吐いていた。事務所に侵入するには排除しなければならない相手だ。

クローンヤクザなど、ニンジャのカラテの前ではスシデリバリー店員と同じだ。つまり殺せる。ブルータルシャドウは拳を握り・・・しかし、ショットガンを見て思いとどまった。

(どうすればいい?相手はショットガンを持ってるんだぞ・・・スシデリバリー店員はショットガンを持っていないのに!)

彼はニンジャになって日が浅く、ニンジャとなってからもスシデリバリー襲撃しかしなかった為、己のニンジャとしてのワザマエを正確に把握できていない。ゆえに他のニンジャなら恐れないような場面でも慎重になってしまいがちだ。以前見た映画でショットガンに撃たれた男がネギトロにされるシーンを思い出し、彼はゴアの恐怖に震えた。

(正面からいくのは危険だ!ここはスリケンで・・・いや、だが・・・)

ブルータルシャドウはスリケンが不得手だ。素手のカラテならば多少自信はある。少なくともデリバリーバイクを破壊できるし、スシデリバリー店員を殺せる。だが走っているデリバリーバイクにスリケンを当てたことは無いし、走って逃げるスシデリバリー店員に当てたこともない。

そもそもブルータルシャドウはスリケンを生成できず、ソウカイヤから支給されたスリケンを数枚所持しているだけだ。スシデリバリー店員殺傷及びデリバリーバイク破壊に非効率的なためほとんど使ったことはなく、また練習をしたこともない。

(スシデリバリー店員相手なら俺は無敵なのに!)

ブルータルシャドウは歯噛みし、頭をかきむしる。彼は精神が不安定なのだ。手が無意識の内にスシ・コレクションに伸びる・・・遥かに良い。他人の不幸が彼に勇気と活力を与えてくれる!

(やってやるぞ!俺はニンジャだ!)

覚悟を決めた。やはりショットガン相手に突っ込むことはできない。スリケンだ。支給されたスリケンを構える。大丈夫。相手は動いていない。走っていない。デリバリーバイクや店員より当てやすい!

「イヤーッ!!」「アバーッ!?」

意を決して投げたスリケンはクローンヤクザの脳天に突き刺さった!緑の血を噴出しながら絶命するクローンヤクザ!ショットガンを持ったヤクザを簡単に!「ヤッタ!」ガッツポーズだ!

「俺は・・・スシデリバリー店員以外でも殺せる!」

ブルータルシャドウは全能感に酔いしれた。こんな気分になったのは初めてスシデリバリー強盗を決行した後、そのデリバリー店員が注文先の客にドゲザしているのを物陰から眺めながら奪ったスシを食べた時以来だ。神になった気分だった。

「俺は誰でも殺せる!総理大臣からだってスシを奪えるぞ!」

彼は今この時、自分が以前のヨタモノとは決定的に違う存在になったことを悟った。己はニンジャであり、伝説に語られる怪物である。ドラゴンやヴァンパイアと同じ存在。己は誰からもスシを奪えるニンジャであり、他者のスシ血液を啜るスシ・ヴァンパイアであり、ダンジョン深くスシ財宝を溜め込むスシ・ドラゴンなのだ!

意気揚々とクローンヤクザの死体を蹴り飛ばし、事務所のドアノブに手をかける。開かない。ロックされているのだ。彼は即座に激憤した。全人類からスシを奪える男に、ドアノブごときが抵抗するのか!

「俺の全能感にケチをつける気か!俺はニンジャで、スシデリバリー店員以外も殺せるんだぞ!つまり誰だって殺せて最強なんだ!」

ブルータルシャドウは激情のままにドアノブにカラテを込める!ニンジャ握力だ!

「イヤーッ!」

ミシミシッ・・・ドアノブは軋んだ音を立て・・・壊れない!

「なんだと!?俺はニンジャだぞ!?スシデリバリー店員もショットガンも怖くないんだ!!イヤーッ!」

再度力を込めるブルータルシャドウ!己の全カラテを込めたニンジャ握力でドアノブをねじ切らんとする!

「イヤーッ!イヤーッ!・・・イ、イィィィヤアァァァァーーーーッ!!」

全力のカラテシャウト!今までの人生、いやニンジャになってからも、彼はこれほどまでに全力になったことはあっただろうか?!命をかけて立ち向かったことはあっただろうか?!

今この時、ブルータルシャドウにはスシも、妬むべき幸福な他人も、己の過去も、ソウカイヤも無かった。ただカラテがあり、ドアノブがあった!己とドアノブの誇りをかけたカラテだけが存在した!

「ハァーッ!ハァーッ!・・・こ、壊れないだと・・・!?」

彼は驚愕した。自分はニンジャだぞ?ドラゴンやヴァンパイアと同じ怪物だぞ?なのになぜドアノブが壊せない?ヴァンパイアはドアノブを問題にするか?ドアノブを壊せないドラゴンなど想像できない。

「何かの間違いなのでは・・・?」

もう一度ドアノブを見る。壊れていない。ニンジャでも、ヴァンアパイアでも、ドラゴンでも、ドアノブは壊せない!

「ば・・・馬鹿な・・・そんな馬鹿なーッ!!」

彼は吠え、頭をかきむしった。彼の精神は不安定なのだ。震える手でスシ・コレクションを激しく撫で回すが、もはや何も感じない。彼の精神は不安定なままだ。自分は怪物になったのだ。だがその怪物は、ドアノブ一つ壊せない怪物だった・・・それは怪物か?そんな怪物に意味などあるのか?彼の精神は極めて不安定になり・・・

「アアアアアーーーッ!!!ウワアアアアアアーーーーッ!!」

ブルータルシャドウはその場に倒れ、ゴロゴロと転がって泣き叫び・・・数分後に立ち上がり、おぼつかない足取りで立ち去った。ドクロめいた月に照らされたドアノブに、ヨタモノの影が映りこんで、やがて消えた。

帰還したブルータルシャドウは子供の使いすら満足にこなせぬサンシタ中のサンシタとして、ソウカイニンジャの笑いものとなった。以降、彼には何ら重要度のあるミッションは回されず、クローンヤクザを使うコストすら惜しい、つまらぬミッションだけが回ってくるようになった。

カラテを鍛えることもなく、かといってサイバネやバイオで自らを強化することもなく、ハッキングのワザマエも無い。ブルータルシャドウは何ら価値の無いサンシタとしてソウカイヤからも半ば放置され、死んだマグロめいた目で何も変わらずスシデリバリーを襲っていた。ある日、赤黒い影が彼の前に降り立ち、その無意味な人生に幕を引いた。

「サヨナラ!」

イクサと呼べるほどの戦いも無く、彼は爆発四散した。ハイクを読む知性などもとより存在しなかった。爆発と共に彼のスシ・コレクションが飛び出し、タッパーからこぼれたスシが爆発四散跡に散らばった。

それは彼の復讐であり、怨嗟の形であった。スシを頼んで笑顔で食べる、そんな家族の幸福を奪った証であった。無意味で無価値な存在だった彼が、唯一この世に残した確かな成果だった。

ブルルルルルル!「ン?なにか踏んだかな?」

デリバリーバイクに乗った店員は、一瞬の違和感に顔をしかめ、しかし何事もないことを確認すると、そのまま配達先のアパートまで走っていく。急がなくてはいけない。お客は自分の届けるスシを待っているのだ。バースデーパーティー用の大型重箱に詰められたスシを一刻もはやく届けるべく、彼はバイクを走らせた。

爆発四散跡に散乱した潰れたスシは、誰にも省みられることなく、やがて降り出した重金属酸性雨に流され、排水溝に消えていった。

【レガシー・オブ・スシバーグラー】 終わり

コトダマに包まれてあれ

と、いうわけで、我が愛すべきサンシタニンジャであるブルータルシャドウ=サンは、ドアノブとのカラテに敗れ、そのまま家路についてしまった。

生き延びたニンジャは次回以降のシナリオに登場させることもできるらしいが、ドアノブにすら敗北したニンジャに出世の目などあるわけがないし、スシデリバリー襲撃をしているのでフジキドがPOPする可能性も非常に高い。よってこういった結末になってしまった。ナムアミダブツ。

初めてのTRPG体験を終えて

ステータスや装備からサンシタの背景設定を考えるのが非常に楽しく、「こいつがネオサイタマで活躍するとしたらこう動くんじゃないか」などと考えているだけで時間がどんどん過ぎてしまった。非常に充実した体験でした。ソロアドベンチャー第二弾、お待ちしております。

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