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『度胸星 続編もどき』_第3話「フラットランド」


scene_度胸たち火星探査船M1の船内

【打ち上げより52日め】
度胸たちクルーの船内での様子が描かれる。
*註:筑前たちの探査船内の様子(本編第41話)との対比をイメージしてます。

トレーニング風景、船外観測、レポート入力、宇宙食の準備など。
筑前たちとは違い、どこか沈んだ様子にみえる。

【場面スイッチ】
度胸と武田、茶々がコックピットで話している。

武田「2度も続けて火星からの通信が途切れた理由・・・ただの通信トラブルなわけはねぇ。」
「しかも母船が消えてるんだ。」
「どんなトラブルが考えられるってんだ?」

一瞬視線を合わせる度胸と茶々。

武田「砂嵐か? いや、そんな偶然もないだろう。」
「太陽フレアか? いや、地球ではそんなの観測されちゃいない。」
「いずれにせよ、母船が消えたことは説明がつかねぇんだ!」

茶々「火星探査の失敗率が高いことは、グレート・ギャラクティック・グール、つまり『火星の呪い』と呼ばれているらしいわ。」

度胸は坂井輪夫妻が話していたことを考えている。

度胸「・・・・・」(会話シーンを回想する)

利宏「火星へ行くくらいでようやく、立体的に物事がわかるようになると思う。」

scene_地球の三河家の能天気な会話シーン

三河家のリビングルームでくつろぐ二人。

愛嬌「しかし、度胸からもう2ヵ月半も連絡がないぜ、母さん。」
「大丈夫かよ、どっかで野垂れ死んでないかよ。」

しのぶ「実はあたしも心配になって、茶々さんに連絡してみたのよ~~。」

愛嬌「で、どうだった?」

しのぶ「それが全然電話に出ないのよ。だから、もう決まりね。」
「二人はどこかで人目を避けて暮らしてるんだわ。」
「愛の逃避行ってやつよ!」

愛嬌、どこか白けた顔でつぶやく。
愛嬌「あいつに親友の彼女を奪うようなクソ度胸があるのかね・・・」

scene_朝になり疲れのみえるブラッドレー

翌朝、寒さで震えているブラッドレー。
――ガタ、ガタ、ガタ、ガタ

あまり眠れなかった顔つき。
岩陰から抜け出し、白みはじめた日光を体に浴びて暖をとろうとしている。

宇宙服のヘルメットシールドに示された経緯度情報を見てつぶやく。
ブラッドレー(心の声)「少しでもあいつらに近づこう。」
「きっと助けに向かってくれているはずだ。」

scene_居住モジュールとローバーの交信

通信機を操作するブロンソン。
ブロンソン「・・・ということだ。人工重力装置はテセラックが裏返して、使い物にならない。」
「居住モジュールでは火星のGでこれからは生活することになるだろう。」

ローバーの通信機に聞き入る二人。
速度超過で少し乱暴に運転しているのは筑前。
*註:自動操縦よりも手動のほうがスピードが出せるため。

石田「それじゃ、テセラックは船内にも入り込むことができるってことだね、ブロンソンさん。」

ブロンソン「そうだ。神出鬼没にして伸縮自在ってわけだ。」
「それだけじゃない。やつは立体十字架から超立方体に形を変えている。」
「すべてはスチュアートの記録にあるとおりだな・・・」

筑前「・・・でも、なぜ重力装置なんだ。前は着陸機ごと裏返されたんだろう?」

ブロンソン「・・・わからない。」
「大きさが変わるのはまだ説明できる。『フラットランド』って本は読んだことあるか?」

石田「いや、ないよ。」
筑前も首を振る。

ブロンソン「フラットランドとは二次元空間のことで、そこに住んでいる住人は縦と横の広がりしか知らない。」
「そこに高さのある三次元の物体が現れるとどうなると思う?」

筑前・石田「・・・・・」

ブロンソン「例えば“球”がフラットランドを横切るとしよう。」
「平面上に現れるのは最初は点だ。」
「次に小さな円、それから大きな円、そしてその逆となって最後に消えるだろう。」

石田「それじゃ、テセラックの大きさが変わるのは、四次元の存在が三次元に現れるときと去るときの形状の差だってことか!」

ブロンソン「そうかもしれないっていう仮説だ。」
「ただし、やつも単純に三次元空間を横切っているわけじゃないはずだ。」
「それに四次元よりもさらに高次元の存在って可能性もある。」

筑前「やつがしていること、やつの行為が形に反映されているって考えるのはどうだろう?」
「だって重力装置を裏返すときに形が変わったんだろ。」
「立体十字架をたたみ込むと超立方体になる。それは外側から内側への力の表出じゃないか?」

石田「そうだよ、それだよ! 理にかなってるじゃないか!」

ブロンソン「・・・確かにいい推察だ。」
「やつにとっては、内と外という区分はないだろうがな。」

scene_真昼間、ふらつきながら歩くブラッドレー

太陽からの弱い日差しを受けながらも、宇宙服の中で汗をかいているブラッドレー。

ブラッドレー(心の声)「夜は氷点下だが、昼は15℃近くまで気温が上昇したな。」
「でも体感温度はそれ以上だぜ・・・」

重力の関係で、跳ねるように歩いているが、疲れ切った様子が伝わってくる。
――ハア、ハア、ハア

ブラッドレー「せめて水が飲みたい・・・」

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