見出し画像

『度胸星 続編もどき』_第21話「地球」


scene_地球への帰路につく

平穏さを取り戻したM1船内。
地球に向けての帰路の軌道をコンピュータで計算するハリコフ。

ハリコフ「地球と火星は今もっとも離れたところにある。ここからは長い旅になるぞ。」
「船体は完璧にシールドされているから有害な宇宙放射線の心配はするな。」

筑前「しかし、水や食料・・・それに肝心の燃料が足りないだろう・・・」

ハリコフ「いや実はな、NASDAからロシアに支援の申し出があって、無人の補給船が打ち上げられているんだ。」
「おそらくちょうど中間点あたりで物資の補給ができる。」
(度胸を見ながら)「ドッキングボードはロシアの規格に合わせてあるから、無茶をせずに行き来できるぞ。」

度胸が少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。

ブロンソン「ところで、テセラックはもう追いかけてはこないのだろうか?」
「だとすれば・・・なぜだろう?」

全員確信のある答えは出せない様子。
おそるおそる意見を言う茶々。

茶々「・・・私が子どもの頃の話よ。」
「子どもだから無理もないけど、絵本に落書きしたり破いたりして遊んでたわ。」
「ある日、絵本の中から悲鳴が聞こえた気がしたの。」
「それきり絵本にいたずらすることはなくなったんだけど・・・」

全員「・・・・・」

茶々「・・・なんだかそのことを思い出したのよ。」
「テセラックから感じた無邪気な意識は、あのときの私と同じようだった気がしたから・・・」

ブロンソン「私たちは三次元の絵本の中の事象で、それで遊んでいる四次元空間の子ども、あるいはその子が使う遊び道具がテセラックということか・・・」

筑前「そして、興味をなくした子どもは絵本を放り出す・・・か。」

ブロンソン「・・・私は物理学者として学び直す必要があるな・・・」

筑前「・・・とにかく俺は落ち着いたら、執筆を始めるぜ。本を出す契約をしてるからな。」
「テセラックについてはいろんな可能性があるだろうが・・・わかることは全部書きつくすさ。」

scene_3年後のクルー 筑前編

高価そうなスーツに身を包み大企業のエントランスを入っていく筑前。
一緒にいるのは「実話セブン」ジャーナリストの林。

会議室で重役と打合せしている筑前と林。
テーブルの傍らには筑前が書いた本『火星と高次元が拓く宇宙経済学 筑前智著 実話セブン出版』が置かれてある。

「投資するなら他社が手を付けてない今がチャンスですよ。」
「それも火星にレアアースを掘りに行こうなんてチンケな話じゃないんだ。」
「ワープ航法や反重力推進エンジン、重力波通信に量子テレポーテーションなんて素材がゴロゴロしてるんですよ、高次元空間には。」

渋い表情で資料に目を通す重役たち。

筑前「いま林が申しあげているのは少し未来の話です。」
「弊社・・・筑前マーズカンパニーは、アメリカ・ロシアと共同で火星に循環航路を就航させる『レッド・エクスプレス計画』を進めています。」

そう言って、ダン・オブライエン元アメリカ大統領とのツーショット写真、ロシアのスキアパレッリクルー救出作戦の成功をテレビでアピールしていた現ロシア大統領とのツーショット写真を見せる。

筑前「火星居住モジュールをこの航路を使って次々送り込み、ゆくゆくは人類の火星移住を実現するつもりです。」

堂々と自己主張する筑前に興味を持ち始める重役たち。

筑前「そのためにはテセラックと交渉して、その技術・・・人類が知らない物理システムを学ぶ必要があります。」
「私を筆頭に火星探査に再チャレンジします。まず、そのプロジェクトにご投資いただきたい。」

不敵に微笑みながら、
筑前「テセラックが拓く未来のポテンシャルは、御社の経営の次元まで超越させますよ。」

scene_3年後のクルー 度胸編

ある小学校で大勢の子どもたちを前に講壇に立つ度胸。
話しているのは火星での体験。
横断幕には「三河度胸宇宙飛行士のお話 『度胸が見た火星、みんなも見る火星』」とある。

度胸「・・・僕たちが火星で出会った高次元の存在も意識を持っていました。」
「だから、“敵意を持つのをやめよう” “暴力からは何も生まれない”という心のメッセージが届いたのだと思います。」

よそ見もせず真剣に聞き入る小学生。

度胸「人が考えていることや思っていることは物理的な現象です。」
「僕の仲間の一人は火星から戻ってきて、意識を量子論で証明するために、意識を媒介する素粒子について研究しています。」

量子脳理論についてテレビで解説する茶々のカットが入る。
氏名テロップは「三河茶々」と書いてある。

度胸「このように宇宙には誰も知らない不思議なことがたくさんあります。」
「たいした度胸もない僕でも火星まで行って、テセラックという高次元の存在と出会えたんです。」
「みなさんならきっと別の次元まで行って、その仕組みを理解しまくって・・・」
「・・・そして無事に地球に戻ってくることができると信じています。」

この記事が参加している募集

私の作品紹介

宇宙SF