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『度胸星 続編もどき』_第14話「ダークマターの正体」


scene_地球の坂井輪夫妻の研究室

朝の明るい日差しが差し込む坂井輪夫妻の研究室。
利宏が本を読みながら考え事をしている。

利宏(心の声)「テセラックに距離は関係ないっていうのは、見えない次元が三次元の実体に物理的な影響を及ぼしていると考えるべきだろうな。」
「それともテセラックは量子論的な実在で、同時に複数の状態で存在する重ね合わせの状態なのだろうか?」

光子がコーヒーを淹れ、カップに注ぎ、利宏に差し出す。

光子「またテセラックのことを考えているようね。」

利宏「ああ、少しでも三河君たちの助けになればと思っているんだが・・・説明できない事象が多すぎるな。」

光子が利宏の隣の椅子に腰かけ、コピーをひらひらと振る。

光子「ねえ、高次元と重力の関係について、こんな記事をみつけたわよ。」

机に広げたコピーからは「高次元ブラックホールが暗黒物質(ダークマター)の正体か?」という見出しがみえる。

光子「回転する銀河の星々が遠心力で飛ばされないのは暗黒物質が重力を補っているからでしょ。」

利宏「そのとおりだよ。しかし、暗黒物質はまだ発見されていない。」
「銀河のある場所にくまなく存在しなければならないはずなのにだ。」

光子「そう、だから小さなスケールに巻き上げられた高次元時空のブラックホールが銀河にあまねく存在していて、強い重力をこの三次元空間に及ぼしているかもって内容なのよ。」

利宏「なるほど・・・高次元ではさまざまなトポロジー(位相幾何学)をもつブラックホール解がみつかっているしね。」
*ブラックリング型、土星型、複数の回転軸など多様な高次元ブラックホールの図挿入。

利宏「そうすると、テセラックの“半透明の膜”のようだと言っていた形状も、ひょっとすると暗黒物質が『重力レンズ効果』で光を曲げるからそう見えるとも考えられるね。」

光子「それよりも私が不思議に思うのは、なぜテセラックは火星にだけ出没するのかってことよ。」
「なにか地球に来られない理由でもあるのかしら?」

利宏「まさか、『2001年宇宙の旅』のモノリスみたいに、地球人が宇宙へ進出できるほどの文明や知性を備えることを待っていたわけではあるまい。」

光子「そうね・・・でも、あながち外れてもいないかもしれないわね。」
「だって、テセラックは超立方体や立体十字架のようなわかりやすい形をしているじゃない。」
「三次元の物体じゃないってことに気づかせるように、だと思うの。」

利宏「テセラック自体が生命体というわけではなさそうだし・・・そう考えると、テセラックはなんらかの存在が操作する道具、または装置なのかもしれないね。」
「その存在が意図して火星に限定させていると考えざるを得ないか・・・」

光子「でも不思議ね。私たちは高次元が物理的実体としてあることを前提に議論をしているのよ。」
「三河君たちが火星から帰ってきたら、私たちの宇宙像は一新されるわね。」

scene_火星の大気圏突入

火星周回軌道付近まで航行し、着陸機の分離についてロシア連邦宇宙局と交信するハリコフ。

ハリコフ「・・・以上が着陸前の報告事項だ、カプスチン・ヤール。」
「着陸準備は整った。交信を終了する。オーバー。」

モニターが切り替わり、ハリコフは着陸機に乗り込んでいる度胸たちと交信する。

ハリコフ「みんな、配置についてスタンバイだ! 母船と着陸機サムームを切り離しにかかるぞ。」
「長らく待ったが、いよいよ訓練の集大成だ。」

武田「俺たちは大丈夫だ。いつでも秒読みを始めてくれ。」

ハリコフ「分離後は、私と母船はダイモスに向かう。君たちはスキアパレッリ3号の居住モジュール近くに着陸する。」
「通常より航行距離が長いが、耐えられるな? 準備はいいか?」

度胸たち三人「ダー(はい)!」

ハリコフ「セパレーション開始、10秒前、・・・3,2,1 着陸機オフ!」

着陸機が分離される。
しばらく火星周回軌道の宇宙空間を飛行する。
そして火星の大気圏に突入しはじめる。
膨張式熱シールドを開いて減速する。

武田「膨張式熱シールド、開放。減速開始。」

無音から少しずつ大気との摩擦音がし始める。
――ゴゴゴゴゴゴゴ

一方、M1母船は着陸機を切り離した反動を利用して衛星ダイモスに向かい始める。
軌道修正用スラスターを噴射させて軌道と高度を修正するハリコフ。

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