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『度胸星 続編もどき』_第17話「衛星ダイモス」


scene_人工重力装置のトラップを用意する度胸と筑前と茶々

サムームの不時着現場にローバーで着いた三人。
重力装置のあった箇所に向かって歩いている。

度胸「ほんとにひどい有様だな。よく怪我もせずにいられたものだ。」

茶々「私は少しムチウチ気味だけどね。」

しゃがみこみ砂を手に取る筑前。
筑前「このへんはレゴリスが厚く堆積していたらしいな。」
「こいつがクッションになってくれたんだろう。」

壊れた船内に入り、度胸が指で指し示す場所で立ち止まる三人。

度胸「あったぞ! これがサムームの重力装置だよ。」

筑前「変わった形してんな。不時着の衝撃でひしゃげてるのかな。」
「度胸ちゃん、バッテリーとつないでみてよ。」

重力装置から電源ケーブルを取り出し、携帯バッテリーとつなぐ度胸。
――ウィーーーン

筑前「よし大丈夫だ。稼働するぞ、やったな。」

度胸「ああ。」

二人のやり取りを静かに聞いていた茶々だが、なにか異変を感じて周囲を見渡す。

茶々「二人とも、なにか変よ・・・装置を切って!」
「テセラックのようだわ・・・昨日と同じ意識を感じるわ。」

船体の壁からするりと姿を現し始めた超立方体のテセラック。

茶々「・・・昨日も起きたことだけど・・・テセラックの意識が視覚的なイメージで感じられるの。」
「・・・とても小さな光り輝くひものような存在が拡散しているわ。」

筑前・度胸「・・・・・」

茶々「同じ振動をもつ素粒子があるわ。それは何かを思うと出てくるの。」
「・・・距離が離れていても瞬時に二つの場所に現れるのよ。」

筑前「・・・それが見えるのか?」

茶々「・・・私には見えるわ。」
「坂井輪さんが示唆したように、小さなスケールに巻き上げられた高次元がこの三次元空間にホログラフィックに投影されていると考えれば、高次元時空を満たしている素粒子も人間の目で認識できるサイズまで拡大されているのかもしれないわ。」

テセラックは物理的には何もしないまま去っていく。

scene_ハリコフの見た風景

ハリコフは火星からの脱出がさらに早まったことで、衛星ダイモスで待機するプランを改め、M1を火星の高度500km軌道上を周回するプランに差し戻していた。

度胸たちがテセラックと遭遇していた頃、M1から火星を観測していたハリコフの視界に不思議な光景が飛び込んできた。
それは、火星全体がうすぼやけた膜に包まれ、半透明になった映像だった。

ハリコフはそれがテセラックの影響だということにはすぐには気づかなかった。

ハリコフ(心の声)「なんだ、これは? まるで実体ではなく、ホログラムを見ているようだ。」

ハリコフは目をしばたたせながらも、視覚の違和感の原因を突き止めようとしていた。
そして、何かに目を凝らすと、その像は無数の極小の超立方体で構成されているように見えた。

そこでようやく、自分がテセラックの影響下にあることが理解できた。
無数の超立方体は、油滴のように大きく結合したり分割したり自由に形を変えることができた。

【場面スイッチ】
ズームアウトの映像に画面が切り替わる。
するとM1でさえも立体風の膜のなかに取り込まれていた。
ハリコフが外側の光景と思っていたものは、ハリコフも含めた内側の事象であった。

【場面スイッチ】
さらにズームアウトすると、テセラックの膜の範囲はダイモスまで及んでいた。
そして、ダイモスの表面には古ぼけたマルス3号が半分埋もれていた。

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