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さくらんぼが繋ぐ親子3代

私が育った家は、食卓にくだものが滅多に登場しなかった。北海道で生まれ育った両親は、北海道を離れても食材のほとんどを地元から取り寄せていたので、食べるものにはそれなりにお金を使っていたはずだが、くだものは贅沢品の部類だったのか。そんな両親の元で育った私もくだものはやはり贅沢品で、いまもなかなか買うことができない。りんごや梨、イチゴやぶどう、好きなくだものはたくさんあるが、自分が食べるだけだといまだに買うことに抵抗がある。

そんな私が、今年、さくらんぼを2回も買った。他人から見たら「それが何か?」的な話だろうが、私の半世紀の人生ではちょっとばかり特筆すべき部類に入る。滅多に買わないくだものの中でも、さくらんぼは買ったことがなかったからだ。イチゴやりんごなら、まだ自分でも買えると思えるけれど、さくらんぼは私の基準では「高級品」である。だからと言って、イチゴやりんごが地位が低いとかいうわけではないのだ。むしろ大好きだし、大人になった今となっては、季節になるとよく買う方のくだものになっている。しかしさくらんぼとなると、まだまだハードルが高いのに、それでも買おうと思ったのには理由がある。

それは、息子夫婦の入籍2周年をお祝いしたかったからだ。

2年前の2019年は両家の顔合わせを行い、2020年には結婚式を挙げる予定だった。しかし2020年は世の中がコロナという得体の知れない感染症の最中にいた。結婚式を挙げるはずだった式場も閉鎖され、招待客も呼びにくい状況が続いていたし、同時期、私の父も病気で具合が悪く、母も精神的にとても参っていたから、本来なら息子の結婚に向けていろいろ心配りをしていくべき母親の私は、当時、本当に余裕がなかったのだ。

そんな中で入籍した息子夫婦は、結婚してすぐ私の父のお見舞いと葬儀を体験した。私がかなり打ちのめされていたのを察して、電話やメールをまめにくれた。その後すぐに控えていた私の誕生日にも、翌年の母の日も、何でもない日にも、2人は何かと心配りをしてくれた。息子ひとりだったら、思いつきもしなかっただろうことを、2人でいろいろしてくれたのだ。  

今年の春、母が引っ越しして一人でなくなってから、ようやく私の中に少し心の余裕が生まれた。母と私の新しい生活パターンが出来てきて、お互いに少しずつ、この生活に慣れてきたのだ。そして息子夫婦の入籍記念日に何かしたいという気持ちが芽生えた。

そこで思いついたのが、なぜかさくらんぼだった。

さくらんぼはこんな風に🍒2粒が繋がった形でよく描かれる🍒この形が夫婦のお祝いにピッタリな気がしたのだ。赤くて、甘くて、可愛らしい、お祝い向きな風貌に、二人仲良くの願いも込めて、二人に贈ろうと決めた。

インターネットで検索していたら、北海道のJA小樽の仁木町で栽培されたさくらんぼを見つけた。さくらんぼといえば山形が有名だが、小樽は私の故郷(ふるさと)なので、小樽に近い仁木町のさくらんぼがいいなと思った。

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実際、息子夫婦に届いたさくらんぼは、一粒一粒がきれいな赤い色で、甘くてとても美味しかったらしい。息子は普段、食べものをあまり褒めない人間なので、わざわざメールで感想を送ってくれたということは、本当に美味しかったんだろうと思う。

そして今日、母に届ける食材を買いに立ち寄ったスーパーで、仁木町のさくらんぼを見つけた。ここは母が春まで一人で住んでいた町のスーパー、今日はたまたま帰省した息子がそばにいる。

先に見つけたのは息子の方で「仁木町のさくらんぼ!ここにも売ってるんだね。」と教えてくれた。「どうする?買っていく?美味しかったんだよね、あのさくらんぼ。ばあちゃんも喜ぶんじゃない。」と言ってくれた一言に背中を押され、母用に買っていくことにした。母のいるところは、今、コロナのために面会禁止なのだけれど、遠方から孫が来ているからと、特別に少しだけ会わせてくれた。ガラス越しだったけれど、母はとても嬉しそうだった。

夕方、珍しく母の方から電話が来た。「あのね、さくらんぼ、とっても美味しかったよ。どうして仁木町のさくらんぼを買って来たの?」    「お母さんの家の近くのスーパーにあったんだよ。」「へえー。そんなの私がいた時には気づかなかったわー。」それから次から次に話は続いた。仁木町はくだものの栽培が盛んなところだということ。昔はりんごで有名だったが、今はぶどうやさくらんぼもたくさん作っていること。それでも北海道に住んでいた時から今まで、仁木町のさくらんぼは食べたことがないこと。

「今日ね、初めてこんな美味しいさくらんぼを食べたの。本当に幸せ。ありがとね。」

母は興奮して一気にまくしたて、何度も「美味しかった」を連発した。

今いる場所では今までのように、なんでも自由に食べられない。自分で動くことも、買うこともできるのに、それができない。不自由な中で、毎日我慢しながら日々を暮らしている母に喜んでもらえることは、息子夫婦に喜んでもらえることとは全然違う意味で貴重なことだ。

そして私も今日、息子と母に届けた仁木町のさくらんぼを食べてみた。

親子三代を繋いださくらんぼは、甘酸っぱくて、とても美味しかった。

なぜだかちょっぴり泣けてきた。また来年も、母と息子夫婦と私、さくらんぼが食べられますように。

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