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ジンファンデルの話07

カルフォルニアにおけるジンファンデルについて、最初に言及されている資料の中で最も信頼が置けるのは、1858年にサンフランシスコのMechanics Institute Exhibitionで展示されたというものでしょう。しかしこの展示会以前にジンファンデル種がロッキーの向こうでは全く栽培されていなかったというと、これは確定できません。
たしかに、ギブス大佐の種苗農園に有ったジンファンデルが、Fredrick Macondrayによって1852年にカルフォルニアとマサチューセッツに送られてたという記録は残っています。それによると、彼によって持ち込まれたジンファンデルが、ナパとソノマにの葡萄農家に熱烈な支持を受けて1888年までに34,000エーカー植えられたとある。
栽培したのは、ニューイングランド/ボストン近郊から移住したピューリタンたちで、彼らがボストンで盛んだった種苗業者からこれを購ったという"もっともらしい話"つきで語られています。...

なるほど。しかし・・僕は小さな疑問を持つ。フィロキセラです。もしロングアイランドで育てられたジンファンデルならば、間違いなくフィロキセラに感染していたはずです。もしギブス大佐の農園で育てられた苗木ならば、カルフォルニアでのフィロキセラ発生は1850年代に始まっているはずです。
ところが。カルフォルニアにフィロキセラが発生するのは1880年代後半からです。感染ルートは、その頃にヨーロッパから持ち込まれた苗木からです。

当時すでに世界中の葡萄を枯らしているのがフィロキセラというアブラムシであることは発見されていました。そしてそれに対抗する方法として、根の部分を北米東海岸固有種・枝の部分をヨーロッパ種にするという技術も、ボージョレー地区の苗木業者によって開発されていました・フランス各地の農家は、時部の畑のブドウの木が枯れてしまうと、これを除き「根が北米製・枝がヨーロッパ種」というキマイラを植えるようになっていました。
ところが、この時にカルフォルニアへ持ち込まれたヨーロッパ種は、このキマイラではなく、ベッタリとフィロキセラに感染したヨーロッパ種だったのです。なんとまあ根深い悪意でしょう・・それがカベルネ種なのかメルロー種なのかは、今となっては分かりませんが、そのためにカルフォルニアに育っていた葡萄の木すべてを枯れてしまったのです。

ところで。。もう少し俯瞰で見てみましょう。
メキシコ領だったカルフォルニアが、カルフォルニア共和国を経てアメリカ合衆国になったのは1846年のことです。もともとスペイン領だったカルフォルニアですが、1822年のメキシコ帝国独立によって、同地を支えていたスペイン人たち(宣教師・資本家・政治家)がメキシコ政府によって闇雲に国外追放されると、当たり前の話ですが、同地は政情的にも経済的にも深刻な混乱に陥ってしまいました。その事態を収めるためにメキシコ帝国は、スペイン人以外(笑)のすべての移民を自由に認めるという政策を取りました。そのために、太平洋側・ロッキーの向こうから大量の移民が20年間で入り込んだ。そして、それが結果として土地ごと全てを失ってしまう原因(米墨戦争)に繋がっていくわけです。
ビジョン無きその場凌ぎの政策が、如何ほど国家を凋落に追い込むか・・典型的な例ですな。

さて。葡萄は・・ですが。葡萄はスペイン統治時代に宣教師たちが持ち込んでいました。宣教師たちは伝道所を作ると、その傍らに葡萄畑を作った。そしてミッション種を植えた。ミッション種は言うまでもなくスペイン本土からメキシコ・南アメリカに持ち込まれた葡萄です。北米東海岸を通過していない。つまり当然フィロキセラには感染していない葡萄です。この葡萄は多産で、寒冷には弱い種ですが痩せた土地には頗る強く繁殖する種類です。
カルフォルニアのワインを造るための葡萄の木は、すべてこの木だったのです。

そして、同地がスペインからメキシコ帝国のものになり、移民を野放図に受け入れるようになると、ハワイからの移民がやってくるようになります。ハワイは当時すでにサトウキビのプランテーションとしてフランスが実効支配していました。したがってハワイにはフランスからの移植者が多かった。その一部がサトウキビだけではなく、メルロー/カベルネなどの葡萄をハワイで栽培していたのです。彼らが新天地を求めて、メキシコ帝国の一部となったカルフォルニアに移住してきた。そしてミッション種ではなく、ヨーロッパ種・カベルネ/メルローを、同地に植えたのです。もちろん云うまでもないことですが、彼らがバルカン半島の辺境の地の葡萄ジンファンデルを植えるわけはない。
では。誰がジンファンデルを植えたのか?
これは大きな疑問として、我々の前に横たわる。
誰がフィロキセラに感染していないジンファンデルをカルフォルニアの大地に植えたのか??

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました