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夫婦で歩くプロヴァンス歴史散歩#29/オランジュ#01


https://www.youtube.com/watch?v=CUotBaJIE8o

その夜の泊りはオランジュOranjeにする予定だった。翌日SNCFを使ってエルミタージュへ向かう。
ホテルは、地元のムシュJがおすすめしたところにした。Grand Hôtel d'Orange(8 Pl. Langes, 84100 Orange)という。
「中心街真ん中のホテルですよ。便利ですが、喧噪な雰囲気はないところです。
ホテルの周辺が楽しいショップが多いです。ホテルのレストランもママはきっと気に入ると思います。駅もそれほど遠くはないです。もしよろしかったら私がお送りしますよ」と言ってくれた。
バァラケスの村を出て、D957カマレ通りを30分ほど走った。
「オランジュOranjeって、果物のオレンジのことでしょ?」嫁さんが言った。
「オレンジは東方から入って来た果実だ。中国南部・インド北東部が原産地だ。aurantiumという。薫り高いという意味だ。貿易はサラセン人のものだった。彼らは北地中海経由でスペインへこれを持ち込でいる。しかし温暖系の果物だからね。ピレネーを越えて東には伝わらなかった。欧州人がオレンジのことを知るのは、十字軍として地中海東を侵略したときでね、彼らは略奪物としてこれを自分たちの国へ持ち帰っている。名前はオーランジャauranjaと言ってた。俗ラテン語だ。これが古フランス語ではオルンジュorengeになった。そして英語になるとオレンジorangeだ」
「あらオランジュ公国とは関係ないの?」

「オランジュ公国はブリュスキエール高原に有った国だ。この地域はもともと古くからケルト人の村落が幾つもあったところで、ケルト語でアラウジオAurenjoと呼ばれていた処だ。これがラテン語化してOranjeになった。インドから来た果物オルンジュorengeとの関係はない」
「あら。オレンジはこの辺が原産なのかと思ったわ。それでオランジュ公国というのかしら・・と思ってた。違うの?」
「ん」
そんな僕らのオレンジ話を聞いていたムシュJが、きっと街の話だろうと思ったのだろうか・・僕の話が終わると、ガイド役をしてくれた。
「はい。オランジュOranjeは名前がオレンジに近いのでとても近しいものとして譬えられます。オレンジ色は街のカラーであり、紋章にもオレンジの果実が入れられています。でも街の名前になったラテン語のOranjeと果物の名前になったフランス語のオルンジュorengeとは、本来は無関係なんですよ。実はオランジュでオレンジは、つい最近まで作られていないんです。温室栽培が出来るようになってからです。
たしかにパリから見るとオランジュは、ほぼ600kmほど南にあるんですが、プロヴァンスも北西部になると・・とくに高原部は温暖系の果物が育つほど暖かくはありません。それとミストラルです。葡萄を育てるのも難しい地域だったんです」
「アロブロゲス族だね。彼らの耐寒冷種が植えられていた。シラー種の原種だ」
「はい。パパのいう通りです。ブリュスキエール高原北部の葡萄は彼らのものでした。ここにピレーネを越えてスペイン側からグルナッシュが入るのは、ローマ帝国が滅んでアロブロゲス族の葡萄畑が荒廃した後からです」
「・・あら。あなたが二人いるみたい。二人で色々話してみたらどう?」と嫁さん。
「オランジュの街はとても古く、ケルト人として栄えていました」ムシュJが続けた。「アラウジオ、Aurenjoと呼ばれていたそうです。この街か゜ローマ化したのは紀元前105年に有ったアラウシオの戦いLa bataille d'Oranjeの頃からです。この頃よりAurenjoはOranjeという名前になったと云われています。だからオランジュにはローマの遺跡が一杯残っていますよ。ぜひ見学してください。
あ・そうだ。ホテルの傍にOffice de Tourisme(5 Cr Aristide Briand, 84100 Orange)が有ります。もしよろしければホテルに入る前に寄ってみますか?」
「あ。ぜひ」
「了解しました」
観光センターはアリステット・ブリアン広場Cr Aristide Briandにあった。ムシュJはショップの前にクルマを停めて僕らを案内した。ここでもまた率先してパンフ・カタログ類を山のように集めて僕らに渡した。

ホテルまでは細い通りにはいって5分あまり。近かった。・・たしかにいいホテルだった。こういう地元密着型のホテルは自分では探せない。有難いなとおもった。僕らがチェックインするまで、ムシュJは観光センターから貰ったパンフ・カタログ類を持ったまま佇んでいた。部屋が決まると、彼が笑顔を見せた。
「裏に素敵な雑菓店COMPTOIRがあります。その前にあるCAFE DE UNIVERSというコーヒーショップがあります。どちらも素敵ですから、後でぜひ寄ってみてください。ご案内しましょうか?」
ご案内は遠慮した。「そうですか・・」ムシュJは名残惜しそうにロビーで手を振って出て行った。
その後姿に手を振り返しながら「いい人ね・・」と嫁さんが言った。
「大好きなんだろうな‥仕事が」

チェックインのときにディナーの予約もした。そして部屋に入った。
ベッドに横になると「くたびれた」と嫁さんが言った。
「少し休むか?」
「んんん。暗くなる前に、さっきドライバーさんが言ってたお店を見に行きたい」
「了解」


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました