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春の京都 滞在日記 (4.1-4.9)

京都府立植物園の夜桜


4月1日(月)

「ここを超えたら、春の京都だ。」

そう心で唱えて踏ん張っていたから、桃源郷に向かうような気持ちで新幹線に乗り込む。本当は「これをやり遂げました!」というお土産話を両手いっぱい抱えて会いに行きたかったのに。唯一話せるのが「残業が80時間だった」なんて情けない。

京都駅まで迎えに来てもらい、バスで北へ向かう。バスの中「最初に桜を見つけた方が勝ちね」となって、私が最初の1本を見つけたのに「2本目の方がたくさん咲いてたから、僕の勝ち」と言ってた。おかしいな。

夜はお花見に混ぜてもらうことに。早めに家を出て、下見がてら川沿いを散歩。ちらほら咲いている木もあるけど、見頃にはもう少し。途中、ただただ広いゲートボール場のような場所を見つけて「これは犬を放ちたくなる広さだね」と言いながら、私たちが駆けてみる。

「お土産話がなくて情けない」の顔

京都は空が広い。山の稜線が水平線に見えて「夜の海みたい」と言ったら、不思議そうな顔をされた。

私が撮るとぼやける、ごめんね

結局「お花見にはまだ早いね」となって丸太町の「バルカン」さんへ。ラムや発酵白菜の入った美味しい餃子を食べているうち、ひとりふたりと増えていき、結構な人数の宴になった。

そこにやってくる誰もが朗らかで、なんだか気の良い素敵な人たちばかり。そして京都グルメ情報やアート情報が、飛び交う、飛び交う。ラジオのように聞き入っていってしまった。おそらく私は寝不足で青白い顔をしていたから、楽しげに映っていたかはあやしいけど、とても楽しかった。


4月2日(火)

休暇を取っていたので、ふらりと出かける。冷たいお蕎麦が食べたくて「そのば」さんへ。大根の鬼おろし蕎麦を頼んで、そばがきと鯖寿司はシェアした。連日の寝不足でなんとなく体調が冴えなかったのだけど、冷たいお蕎麦を食べたら、身体がしゃんとした。

炙った鯖寿司、驚くほど美味しい

夜は念願の「お皿とスプーン」さんへ。好きなお店になることは予感はしていたけど、想像を悠に超えて「好き!」と思った。お料理も、空間も、お店の方の雰囲気も、全部がとても好みだった。デリが数品載った前菜、美味しかったなあ。

素敵なお店は会話を弾ませてくれる。「楽しいお土産話がない」なんて思っていたのに、気付けば「こんなことをやってみたい、あんなこともやってみたい」と夢中で話し込んでいた。噛み合わない今に疲弊するより「やってみたい」と思うことに夢中になってみようか。

彼はいつも、私が落とした願いをひょいと拾い上げて「はい、落としてたよ」と手の平にのせてくれる。そういう人。かなわない。


4月3日(水)

仕事をして、お昼ご飯を作って(もらって)食べて、散歩をして、退勤。仕事が驚くほど捗った。生活の力すごい。

夜は焼売づくり。手先が不器用な私は包むのに手こずる。結局、彼が焼売を担当して、私は簡単な水餃子をまかせてもらったのに、それも全然うまく包めず、いよいよ落ち込む。最後の数個でようやくコツを掴めて嬉しくなる。

食後、気付いたら机に突っ伏したまま、2時間くらい眠っていた。お腹いっぱいになって寝落ちすると「やってしまった」と思うけど、それ以上に気持ちが良い。穏やかな生活に体も心も適応してきた。


4月4日(木)

今日も休暇。ひとり散歩。安達茉莉子さんと大和田彗さんの「もちよりradio」を聴きながら、ただただ歩く。平日の京都はこんな感じなのね、と観察しながら、ただただ歩く。

この道は好きだな、この道はそうでもないな、という感じであてもなく歩き続ける。どんな観光名所を見てもそこはまだ「知らない土地」のままだけど、好きな道や景色を見つけると、そこは知らない土地から、好きな街になる。

東京でも、逗子でも、京都でも、ニュージーランドでも、パリでも、どこへ行っても同じことをしているなあと思う。歩いて、街の空気を感じて、考えて、ときめく瞬間を記録して。

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夕方、仕事の取材で大阪へ。勤務先の仕事ではなく、はじめて個人としてお手伝いさせてもらっている案件。これでいいのかな?と思いながら、手探りでやっている。ちゃんと力になれてますように。

お客さんのところの猫ちゃん。犬も猫も大好き。

4月5日(金)

京都に来るとつい「どこか行かなきゃ」と思ってしまうけど、今回はお花見が出来たら十分で、あとは生活をたのしみたい気持ち。

今日はお昼に、残っていた焼売、残っていた鶏肉と野菜の炒め物、数日前に漬けていたぬか漬け、ちょっと良い納豆、具沢山のお味噌汁。なんとも豊かな献立に「そうそうこれが生活」と思う。“昨日の残り”は日常の流れあってのもの。

夕方のお散歩も贅沢な時間だった。空気が澄んでいて、桜も綺麗で。こんな時間をちゃんと持てるたら、疲労困憊モードになる前にデイリー回復出来そう。

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夜、プロジェクターを白い布に映して「オデッセイ」を観る。植物学者が火星で生き抜くSF映画。知識と体力だけでなく、生き延びるためにはユーモアとポジティブマインドが大事だなと思う。でも宇宙には行きたくない。


4月6日(土)

夜の植物園へ。「夜の植物園」という響きがもうワクワクして仕方がない。植物園の入場料はなんと200円。ライトアップされた夜桜に感動。温室も見応えたっぷりだった。

アリエッティになった気持ち

植物園を出るともう21時。お腹が空いて近くの和食屋さんへ。ふらりと入ったら、粋な大人が通うお店という感じで、ちょっとだけドキドキしながらカウンターに座る。気取らない空気なのに格好いいお店だった。下戸だけど、こういう場所が似合う女性になりたい。


4月7日(日)

春を超えて、初夏のような天気。桜が見頃になってきたので、鴨川をお散歩。「春の京都はみんな浮かれてるよ」ってこのことかあ、と思いながら、私も浮き足立つ。

あちこちで愉しげな宴が開かれていて「ちょっとお邪魔していいですか?」と入りたくなるほど。でも、ひとりでのんびりしている人たちも居て、それが良い。私も混ざって、コーヒー片手に本を読みながら、日向ぼっこをした。あっという間に「春に浮かれるひと」になれちゃった。

大宴会の隣でも、ひとり満開の桜の下にごろんと寝転べるような勇気があればいいのだけれど。 春の京都は誰もが浮かれているらしい。私もそこに混ざれるかな。春に浮かれる人になりたい、今年こそ。

やっぱり京都は鴨川を歩くのが一番好き。

夜は叡電に乗って嵐山へ。「叡電ってワクワクするね」と言いながら、遠足気分で外を眺める。嵐山駅を降りたら見事な夜桜が広がっていた。渡月橋を渡り「儘」さんへ。明日には帰ると思うと寂しくて「月曜からもう一周したい」と思いながら、鴨を噛み締める。美味しい。

帰って銭湯へ入り、アイスを食べる。なんとも完璧な日曜日。

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今日のくだらない会話。私の誕生日を「いいフナの日(11月27日)」という可愛くないゴロ合わせで覚えようとしてたから「お願いだからツナにして」と頼み込んだ。フナはあまりに可愛くない。


4月8日(月)

月曜になってしまった。後輩とZoomをしてたら「東京とは顔つきが全然違いますよ。」と言われる。本当にそうかも。

1日中雨がしとしと降っていて、雨音の心地良さについつい昼寝。このまま夜まで眠りこけてしまえば帰らないですむかなあと思ったけど「そんなんじゃだめだ」と思い、起き上がって荷造り。

雨が降る中、のろのろとスーツケースを引きずり、京都駅行きのバスに乗り込む。だねど、気付いたら途中下車してラーメンと餃子を食べていた。なんならライスも食べていた。おかしいな。スーツケースを軽快に転がしながら出戻り。


次の日、のんびり仕事をして、夕方の新幹線で帰った。

これにて春の京都日記は終わり。次は夏かな。そのときは「くたくたで京都へ行く」は卒業できていますように。季節だけじゃなくて私もちゃんと変わっていかなければ。

春の京都、とっても楽しかったな。

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