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春菊の走馬灯

春菊の香りが好き
ひさしぶりに八百屋さんで春菊をみかけた
胡麻和えになってもらおうと連れて帰った

春菊を洗って
まな板にのせて
包丁をあてようとしたその瞬間
春菊の走馬灯をみた


ミレーの落ち穂拾いのように
身をかがめる人影
土の香りとくぐもった空とお日様の光
ぱちぱちあたるお水のシャワー
虫がからだを這うもぞもぞ
ざんっと根本から斬られた時の衝撃
ふぁさっとビニール袋でおめかしした時の
あのはにかみ
あら あなたも? わたしもなのよ
いっしょにダンボールにはいった仲間との
楽しみね みたいな会話
トラックに揺られながら
春菊はわくわくしていた


楽しい
どんなことがおこるんだろう


春菊にとって
あらゆる場所触れる空気目に映るものすべてがすてきな経験だった
ちょっとのどが渇いたって
土から離れてさむくたって
それも生きているから感じられることだから嘆きを経験するのも悦びだから
そのために春菊に生まれたのだから

しだいに春菊はつかれてきた
渇きや寒さやしなしなもちゃんと感じた
それでもただ静かにわくわくした目でこの世界をじっとみている



包丁をあてて
刃先がまな板につくまでの時間だったと思う
その一瞬にみた春菊の一生は美しかった
春菊はいつもわくわくしていていい気分


なぜ空がくぐもっていたのかな と考える
もしかしたらその春菊は
ビニールハウスで育ったのかもしれない

春菊はよく空を見上げていて
土とお日様のあたたかさで自分を満たそうとしていた
それだけで幸せそうだった



ひっこぬかれて
はこばれて
おばさんにたべられて

ただそれだけだったけれど
わたしのみた春菊の一生は美しかった
ただそれだけじゃなかった



春菊の命はわたしの栄養になり
わたしを生きながらえさせてくれた

春菊にお礼の手を合わせる
命を頂きましてありがとうございます
受け継いだこの命 なにかいいことに使います




春菊に恥じない一生にしなくちゃ



春菊の一生は美しかった








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