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ジャンルの垣根を越える〜「二人展」裏話〜

以前、非常にユニークな美術展を見たことがあります。たとえば、ある作品は一見すると水墨画風の屏風なのですが、しばらく(2〜3分でしょうか)見ていると湖面に波紋が広がったり、水鳥が飛び立ったりして絵が動くのです。つまり屏風は実はスクリーンであり、そこに動画が投影されていたのです。単純に面白いな、と思っただけでなく、アートに垣根なんてないんだな、なくていいんだなと感じたことを覚えています。

ところで、私は小さい頃は絵を描くことが好きでした。が、悲しいかなその方面の才能が…。しかし、カメラならシャッターを押すだけで一瞬で絵が描けます。いや、こういう言い方は絵を描く方からすれば「ざけんじゃねえよ」というお話かもしれないので(汗)少なくとも自分の意識の上では「カメラという筆・絵の具を使って絵を描いている」と言い換えたいですが。

まあそれはさておき、今回の「二人展」を写真+イラストで行うことになったのは、Karenさんのイラストの才能を記憶していた私が「こういう形でやるのはどう?」と提案したことがきっかけではありますが、彼女の作品が(1)私の写真を題材に描いたイラスト (2)写真の「続編」としてのイラスト(3)写真に写真で応える「アンサーフォト」の3種類で構成されることになったのは、彼女自身のアイデアです。どれも私にはない発想でした。

制作の手順としては私が写真を選び、彼女がイラストにする(または写真で応える)というものでした。要するに私の写真は素材にすぎないわけですが、本人は後に「最初に先生(私)の写真を見たときは頭を抱えました」と苦笑交じりに打ち明けてくれました。理由はというと「すでに絵画的だったからです」。でも「絵画的」とは、いったいどういうことなのでしょうか。

実は、今回私が選んだ写真の撮影意図は「できるだけどこだかわからないように撮る」という、今思えば正に絵画的な発想によるものでした。具体的にはモノクロにして色情報を無くし、撮影場所のヒントになるようなもの(例:ランドマーク、看板)も極力画面に入れない、など。要するに「どこまで情報を間引くことができるか?」を考えたら結果的に絵画に近づいたということなのかもしれません。

その点をもう少し補足しますと、写真と絵画には、例えば写真が「撮影者やレンズの前に存在するものは(画角内である限り)すべて記録する、言い換えれば存在しないものを画像に定着させることはできない」のに対して、絵画は「画家の目の前に現実に存在したものを省略したり、あるいはそもそも存在しないものや起こるはずがないもの、画家が直接見たわけではない光景なども描き出したりすることもできる」という違いがあると思うのです。

冒頭の美術展が素晴らしいと思ったのは、そうした写真や動画、絵画や彫刻などといった芸術の異なる分野がクロスオーバーすることで生まれる新たな芸術がある、と知ったから。図らずも、今回の「二人展」では教え子のおかげで改めてその点に気づくことができたような気がします。

結論。写真も、絵画も、その融合も、どれも素晴らしい!

いささか当たり前すぎる結論かもしれませんが、本当にそう思います。

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