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故郷からの便り

小学生の時のことだ。新聞を読んでいたら、同じ市内で理容店を経営しているという20代の人が投稿文をを見つけた。田舎の町の名前が全国版に掲載されるというのは子ども心にも誇らしかった。
それから何度もその人の投稿が掲載された。内容は日常のこと、時事問題、大ファンだという相撲のこと。
高校卒業後に故郷を離れてからは自分で新聞を購読し、その人の投稿を読むたびに故郷を懐かしく想った。

就職、何回かの引っ越し、結婚、子どもが生まれ、購読紙は変わっても投稿は続いた。
息子さんが小さい頃からの夢を叶えて相撲の呼び出しになったという投稿を読んだ時には身内のように嬉しかった。

50歳代のある日、帰省したおりにそのお店を訪ねてみようと思いついた。

少々迷い、道を尋ねながら緊張して店頭に立った。生家から歩いたら10分ほど。それなのに40年以上もかかってしまった。
文章から謹厳実直な人を想像していたが、気さくな人だった。

髪を切ってもらいながら、ご主人と話題は弾んだ。投稿のこと、相撲のこと、息子さんのこと。相撲ファンが投稿を読んで遠方から訪ねてくることもあるという。帰り際に投稿文をまとめて自費出版した本を二冊いただいた。

あれから4年、最近も横綱照ノ富士の投稿が載っていた。自営業なので引退時期を悩んでいると言っていた74歳のご主人は今も現役でおられるようだ。新聞が取り持つ故郷との縁。

毎朝故郷からの便りを期待して朝刊を開く。

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