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取材イエスマンだと書くときに苦労する/作家の僕がやっている文章術051

インタヴューを経るか否かを問わずに、記事には3つの要件が必要です。

「より新しく」
「より深(詳し)く」
「より分かりやすく」

……書く。

この3つの規矩準縄(きくじゅんじょう)を私は40年にわたり守ってきました。

すでに知られていること、報道されていること、どこかに発表されていること
……より新しい情報であること。最先端(先に進んだ)情報であること。

第一報されたこと、ある程度は知られていること、知っていると思い込まれていること
……より深くて詳しい情報であること。

表層的なこと、専門的で難しいこと、理解できるはずがないと読者が敬遠すること
……だからこそ、誰にでも分かりやすく書くこと。

Webライターであれば、リサーチのプロセスで情報をネットで検索するでしょう。深掘りのコツは「より新しく」「より深く」「より分かりやすく」を志して調べることです。

3つの要件で得られる自信とワクワク感は、原稿をより速く書くのに役立ちます。

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執筆にはワクワクが必要

取材ができるのは、大チャンスです。

取材の相手が、専門家、当事者、体験者であるならなおさらです。

「より新しく」を書くためには、事前に既知となっている記事をできるだけ読み込んでおきましょう。

ネットや雑誌や書籍ですでに書かれていることを、取材でなぞるだけでは、取材対象者にわざわざ会う意義がありません。

まだ知られていないことを聞き出すのが、取材の本意です。

「より深く」を書くためには、Q&Aの一律な質問とその回答で納得しないことです。

A(アンサー)を即、納得しないことです。

「それはどういうことですか」「分からないのでもう一度説明してください」「それが起きたのはいつ、どこでですか」

などとQ(クレスチョン)を深めて、さらに質問をすることです。

取材の場面では決して、遠慮や配慮や謙譲はしないことです。

「答えてくれたのだから、分かりましたと反応しなくては」と考えると、いざ原稿を書く際に、言葉としては存在するけれど意味としての文章が書けないという事態に追い込まれます。

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Q&A、Q&A、Q&A……と、予定質問の1問1答を、すべてこなすことに夢中になってはいけません。

インタヴュー例1は、1問1答のありがちなやりとりです。

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<インタヴュー例1>

Q:睡眠アドバイザーとして起業なさったのは、どうしてですか?
A:私自身が睡眠に悩んでいたし、厚労省の睡眠指針が改定されたタイミングだったからですよ。

Q:起業時の苦労を聞かせてください。
A:2013年当時は睡眠をアドバイスしてもらうなんて発想は誰も持っていませんでしたから、営業をかけても契約が取れませんでしたね。

Q:事業内容を教えてください。
A:企業を顧客にして、従業員の睡眠を良質にするためのプログラムパッケージを販売しています。

こんなQ&Aが10問ほど続いたとします。

1問1答だと表層的な記事しか書けません。

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<文例1>

A氏が睡眠アドバイザーとして起業した理由は、A氏自身が睡眠に悩んでいたからであり、厚生労働省が定める健康づくりのための睡眠指針が2014年に改訂されたからだ。
起業当時は、睡眠をアドバイスしてもらうなどという発想を誰も抱いていなかったために営業をかけても契約は取れなかったという。
現在は、従業員の睡眠を良質にするためのプログラムパッケージを企業に販売している。……

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分かりやすいでしょうか。内容を実感できるでしょうか。詳細が手に取るように理解できるでしょうか。

「より分かりやすく」を書くためには書き手である取材者が、実感を伴った理解を取材から得る必要があります。

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次のように取材を展開すると、より分かりやすく書く下地が作れます。

<インタヴュー例2>
Q1:睡眠アドバイザーとして起業なさったのは、どうしてですか?
A1:私自身が睡眠に悩んでいたし、厚労省の睡眠指針が改定されたタイミングだったからですよ。

Q2:睡眠に悩んでいたとは、具体的にどんな悩みだったんですか(A1を受けての深掘り質問)

A2:起業する前にIT企業で働いていたんですが、毎日朝方に4時間しか眠れなくて、それも寝つきが悪くて、ボーッとした頭で次の日の仕事に向かったんです。

Q3:IT企業って具体的にはどんなお仕事だったんですか。(Q2を受けてのさらに深掘り質問/当時のA氏の実態の詳細)

A3:クライアントごとの経理システムを管理する責任者だったんです。部下が仕事を終えて全員が帰宅するのが午後10時くらいで、僕はそれから帰宅に片道2時間で、妻の料理を食べて、お風呂に入って、布団に入るのが午前1時過ぎで、スマホに部下からの連絡が入るので、午前3時頃にスマホをしまって寝るのですが睡眠が浅い。午前7時に起床しないと午前9時の出社に間に合わない。それが3年続くうちに、ある朝起きられない、出社する気になれなくなってしまったんてすよ。

Q4:なるほど、ご自身がうつ病になったんですね。(A3を受けての同調と確認。メモをとる間を作り出す効果もある)

A4:そうなんです。勤務形態に問題があるというよりも、これは睡眠をきちんととれないからではないか。多くの人が睡眠が原因で困っているはずだ。だから多くの人たちの睡眠を改善しよう。個人で改善できる問題ではない。そのためには企業に働きかけて従業員の睡眠に関心を持ってもらうことからだ。それが起業のきっかけでした。

Q5:厚労省の睡眠指針の改定が2014年でしたね。
(事前に調べておいた知識をここで繰り出す。確認→「はい、そうです」だけでは終わらない期待で回答を待つ)

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A5:そうです。2003年に初めて作成されてから11年ぶりの改訂でした。健康のためには食事、運動の2柱だったのが睡眠が加わって3柱になったんです。2014年の改訂によって、ますます健康に睡眠が重要だと国が国民に周知しようとしたわけで、これが私のビジネスの追い風になりました。多くの企業が関心を持ち始めたときでした。私は2013年に初めて睡眠プログラムを商品として売り出していました。このタイミングとマッチしたんですね。ちなみに睡眠指針、2020年にも改訂されていますよ。

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A(アンサー)にすぐに納得せず、浮かんだ疑問を次の質問として投げかけています。

事前に準備したQ&AのQだけで、取材を進めてはいません。

インタヴュー例2では、Q1問に対して、A1答の往復だけではなく、詳細を聞き出すために、会話に持ち込んでいます。

会話が乗ってくると、親和が生まれ、相手は胸襟を開きます。

本来なら、聞き出せなかったかもしれない事実まで語ってくれます。

より詳細な内容をも語ってくれます。

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さて取材を終えて、執筆する支度が調いました。

ここでQ&Aを整理して、主題を定めます。

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『A氏が睡眠で起業した理由』としておきましょう。

<文例2>

『A氏が睡眠で起業した理由』

A氏は睡眠プログラムを企業に販売し、従業員の睡眠を改善する事業を展開している。
起業した2013年当時は、プログラムはまったく売れなかった。
睡眠のアドバイスをしてもらう必要があることを誰も理解していなかったからだ。
追い風が吹く。2014年に厚労省が『健康づくりのための睡眠指針』を11年ぶりに改訂した。
健康づくりには食事と運動の2柱が必要だとの認識に、睡眠が第3の柱として加わったのだ。
良質な眠りをとることが健康づくりには必要だと国が国民に周知し始めたのである。
A氏は時流に乗って起業したわけではない。
A氏自身の経験が起業の背景にはある。
「4時間しか眠れない勤務形態のなかで働いていました」
IT企業だった。経理システムの責任者だった。
「部下が全員会社を出たのを確認してから帰宅すると夜の12時過ぎになってしまう毎日でした」
片道2時間の通勤時間。
明け方までスマホで部下からの連絡に応答し、眠るのが午前3時過ぎ。
そして午前9時に出社するために、午前7時に起きる。
わずか4時間の睡眠を3年間続けた。

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「ある朝、起きられない。出社する気力がない。うつ病になってしまったんです」
A氏が独創的なのは、会社の勤務形態を問題視したのではなく、睡眠に原因があると考えたことだ。
「良質な睡眠をとるためのパッケージプログラムを企業に売ろうと考えました」
従業員がきちんと睡眠をとることで健康を保つ。仕事のミスが減り、集中力が上がり、企業全体の業績が上がる。健保組合の支出が減る。
「この仕組みが日本中で機能すれば、生産効率が上がります」
少子高齢化で生産力の低下が危惧される時代に、睡眠改善による生産力の向上をA氏は、旗じるしに掲げている。
「起業には使命感が大事なんじゃないでしょうか。時流に乗ろう、斬新なことをしよう、儲けようという動機だけでは、起業は面白くありません」
好きなことで起業する。
まるで趣味の延長上で起業できるように私たちは思い込んでしまう。
A氏が睡眠アドバイザーとして起業した背景には、自分の悩み解決だけではなく、多くの人が睡眠に苦しんでいるだろうという気付きがあった。
睡眠を個人では解決できない現実にぶつかった。
企業をベースにして従業員の睡眠を改善しようという発想があった。
従業員の睡眠が改善されれば企業の業績があがるという大義が生まれた。
いまA氏は日本国民全員の睡眠を改善して、経済を押し上げようという使命感でビジネスを展開している。
起業には、使命感が必要だ。
睡眠を改善することで、企業の業績があがり、日本経済を発展させる。
それがA氏の使命感だ。それがA氏が睡眠で起業した理由である。

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「より新しく」
「より深(詳し)く」
「より分かりやすく」

……書く。

そのためには、単純なQ&Aで終わらせてはいけません。

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取材の回答にすぐに納得しないこと。イエスマンにならないこと。深掘りを心がけること。

単純なA(アンサー)だけを頼りにいざ原稿を書こうとしても表層的な、つまり言葉の表面をなぞるだけのような文章しか書けなくなるからです。


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