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ミュージシャンへの前払いとNFT

今回は、弊社Hike Venturesの投資先 Paperchainのお話です。

Paperchainが解決する課題

Spotifyでは、全世界で1100万人のミュージシャンが音楽を配信してると言われています。(本ブログでは、個人とグループを総括してミュージシャンとしています)Spotifyは、ストリーミング数に応じてミュージシャンへ月に一回支払いを行います。途中にレーベルなどが介在しているとミュージシャンへの支払いはさらに遅くなり、場合によっては、2ヶ月以上先まで支払いを待たなければならい場合もあります。

Paperchainは、ミュージシャンに対してSpotifyやレーベルの支払いサイクルを待たずに、既にストリーミングされた楽曲に対してミュージシャンへ毎日前払いをするサービスを提供しています。ミュージシャンにとっては、機材の購入や日々の生活に使える手元資金が増えるので嬉しいですね。

支払いサイクルの短縮は、売上や就労情報のデジタル化が進む中で加速してきています。例えば、DoorDashは、同社の売上データを使ってDoorDash Capitalという店舗向けのファイナンスサービスを提供しています。Uberは、ドライバーが既に稼いだ分を1日5回まで支払うInstant Payを提供。Branchは、SMB向けに給与前渡しができるSaaSを提供していて、例えばレストラン向けPOSからデータを読み込み、スタッフが稼いだチップをその日のうちに支払うといったことを可能にしています。

Paperchainのからくり

Paperchainが利用するデータは、ミュージシャンのSpotifyアカウントからアクセスできる過去の報酬と日々のストリーミング数などのデータです。それらを元に、先払いできる報酬をAIを使って予測します。

ここまでは、他の前払いサービスと同じなのですが、Paperchainが面白いのは、Spotifyのデータを使ってNFTを作成し、Defiを使って前払い資金を調達しているところです。

NFTというと、猫や猿の画像を想像してしまうかもしれませんが、NFT (Non Fungible Token)は、ブロックチェーン上で唯一無二のデータを記録するための仕様で、必ずしも画像データと連携する必要がありません。Paperchainが作成するNFTには、AIが計算した予想収益、支払日、配信プラットフォーム、ストリーム当たりの単価等のデータが含まれます。そして、このNFTは、DeFiレンディングプラットフォームMakerDAOで担保として利用されます。MakerDAOは、これまでイーサリアムなどの仮想通貨を担保に、彼らのステーブルコインであるDAIを貸してきました。Paperchainが作成したNFTの担保性に関しては、PaperchainとMakerDAOの間で時間を掛けて議論され、最終的に仕様が決定しました。MakerDAOは、このNFTを受け取るとDAIを貸し出し、Paperchainは受け取ったDAIをUSドルに両替して、ユーザのデビットカードの口座へチャージします。デビットカードはVISAと提携しているため、VISAが利用できる店舗で利用できます。
(実際は,もう少し複雑です^^;  詳細はこちら

ブロックチェーンの外の世界(オフチェーン)とブロックチェーン(オンチェーン)をNFTを媒介として繋ぐことによって、金融機関からドルを借りることなく前払いを実現しています。(実際には、銀行に行ってSpotifyのアカウントの情報を見せてお金を借りるのは難しいと思います。。。)

補足となりますが、MakerDAOは、オフチェーンへの貸付に積極的に取り組んでいて、今月フィラデルフィアを拠点とするHuntingdon Valley Bankに対して$100Mを上限としてDAIを貸し出すことを承認しました。

最後に

Paperchainは、現在Spotifyに対応していますが、今後はクリエイターが利用する様々なプラットフォームに対応していく予定です!

弊社では、これまでAIとブロックチェーンが交差するようなプロジェクトを探してきました。今回Paperchainと出会い、現実世界の資産をブロックチェーン上で表現するうえで、データやAIが果たす役割、オンチェーンとオフチェーンを行き来するアイデアをプロトコルレベルまで昇華させる道筋とリスクに関する考え方について多くを学びました。それとともに、ユーザにブロックチェーンや仮想通貨を意識させずに、あくまでも裏側でブロックチェーンを利用してビジネスモデルを構築していくアプローチに凄く可能性を感じています。