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平面に空からコイン

目がくらむ白い空。

外へ出れば太陽で肌がチリチリする。

時間はあるけどすることがないのでドライブに出た。

そういえば、最近引っ越して

いつも行っていたガソリンスタンドが遠くなってから

ほとんど洗車していない。

できるだけ広いガソリンスタンドを選んで

洗車の前に、とりあえず3千円分給油する。

2台の自動洗車機はどちらも使われていて、

それぞれ後ろに1台ずつ次の番を待っていた。

わたしは奥の方の列に車をつけ、エンジンを切り、待つことにした。

目の前には練馬ナンバーの白いマークX。

白い髭のおじさんに丁寧に拭き上げられている。

わたしは、ローソンで買ったジャイアントコーンを手にし、

バリバリと封を開ける。

運転席のドアを全開にして、ジャイアントコーンをかじる。

頭の中は空洞で、

目の前に広がる青々とした田んぼの景色だけが映し出される。

「洗車が終わりました」

なんにもない景色に自動洗車機の女の声が

フイと転がってきた。

(あと、ふた口残ってますので待って下さい。)

そして、車が自動洗車機に飲み込まれ、

ただひたすらにわたしの車が洗われていくのを待つ。

車を「仕上げゾーン」に移動させ、ドアを開け、マットを外に出して軽くはたき、掃除機の硬貨挿入口に財布から出した100円玉を差し込んだ。

だけど、固く閉ざされたような感触がするだけで硬貨が入らない。

強めに押し込んでみるが、入る様子がない。

隣の掃除機にしようかと思ったが、練馬のマークXに、まだ塞がれていて使えない。

しかたがないので、ガソリンスタンドの店員を呼ぶことにした。

中肉中背の、わたしより年上のような気がする男の店員が走って来る。

コインが入らないことを伝えると、映りの悪いテレビのようにガンガンと掃除機の精算機を叩いた。

「これねぇ、ありえないことがよく起こるんですよ。こないだなんか、ペットボトルが吸い込まれてつまって。どうやって入ったんだかねぇ。」

吸い込み口は、幅10cm、厚さ2cmの平べったい形だ。

たしかに。どうやって入ったんだろう。

頭の中で、ペットボトルをつぶしたり、分解したり、まるめたり、想像してみる。

そのうちに、100円玉が入り5分間のメーターが点滅していた。


わたしの頭の中の日常という平面は

ときどき、空からコインみたいなものが降って来る。

心が少しだけドキンとして、一瞬、違った景色を見せてくれる。

コインが降ってくる、その瞬間を待ちわびている。


クリーナーのSTARTボタンを押すと「ゴー」という勢いのある音が鳴って、いつものようにマットのホコリを吸い込んでいった。

(写真 佐藤弘基)