THE FALL OF FERGAL

地震ならぬ、巨大な穴の勃発にみまわれる、とある国。ル・フェイはタイピングコンテストの全国大会に出ることになった。きょうだい全員で応援にいくが、まずしいマクナレー家にはひとり分しか旅費がない。どうにかやりくりし、珍道中の末に会場に駆けつける。ル・フェイは見事優勝し、みんなで大喜びしたのもつかの間、かなしい事故が起きてしまう。

作者:Philip Ardagh(フィリップ・アーダー)
出版社:Faber & Faber(イギリス)
出版年:2002年
ページ数:134ページ(日本語版は~160ページ程度の見込み)
シリーズ:全3巻(既刊)


作者について

1961年イギリス生まれの児童文学作家。大英博物館で子ども向けの講座の講師をつとめた経験もあり、フィクションのみならずノンフィクションの作品も多い。著書は100冊以上にのぼるが、邦訳は『あわれなエディの大災難』(こだまともこ訳 あすなろ書房 2003 年)ほか3冊のみ。

おもな登場人物

● ジャッキー・マクナレー:マクナレー家の長女。ほかのきょうだいよりずっと年上で、母親がわりをつとめている。ジャッカルに変身する。
● アルビー・マクナレー、ジョシュア・マクナレー:マクナレー家のふたごの男の子。
● ル・フェイ・マクナレー:マクナレー家の次女。タイピングコンテストの全国大会に出場する。
● ファーガル・マクナレー:マクナレー家の末っ子。タイピングコンテストが開かれたデルホテルで、14階から転落死する。
● ルーファス・マクナレー大佐:マクナレー家のお父さん。かつては海軍の英雄だったが、今は酒びたりの日々を送っている。
● マルコム:タイピングコンテストを主催したタップ&タイプ社の広報部員。
● ツィーディー警部:デルホテルの警備員長。かつては海軍にいた。
● ミスター・ピーチ:腹話術師。デルホテルに向かうバスでマクナレー家の子どもたちと知り合う。タイピングコンテストでは腹話術を使って課題文を読む役をつとめた。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 小さなファーガル・マクナレーがデルホテルの14階から落ちた。ジャッキーが「窓から身を乗り出さないで!」と叫んだときはもう遅かった――。

***

 マクナレー家はとてもまずしい。食事は1日1回だけだし、電話もない。お母さんは亡くなっていて、もうおとなの長女ジャッキーが幼いきょうだいの面倒をみている。お父さんはかつて海軍の英雄だったが、戦争中に自分の命とひきかえに足を失って以来ひねくれてしまい、子どもの世話もせず、酒びたりの日々を送っていた。
 マクナレー家のお父さんと子どもたちは、外見がとてもそっくりだ。ごわごわの赤毛と顔じゅうのそばかす。そしてジャッキー以外はすきっ歯だった。お父さんは自分の世界に閉じこもっていたが、5人きょうだいはとてもなかよしだった。

 ル・フェイがタイピングコンテストの全国に出ることになり、ジャッキーたちはお父さんの反対をおしきって応援に行くことにする。しかしお金がない。ル・フェイの交通費や宿泊費はスポンサーのタップ&タイプ社から出るが、家には2人分のバス代しかなかった。そこで、ファーガルはおむつをして赤ちゃんになりすまし、ふたごのアルビーとジョシュアは1人のふりをしてバスの運転手をごまかすことにする。夜はル・フェイが泊まるホテルにもぐりこむ作戦だ。
 先にル・フェイが電車で駅に着くと、タップ&タイプ社の広報部員、マルコムが迎えに来ていた。コンテスト会場となるホテルの豪華さにル・フェイは目を見張った。
「ルームサービスです!」という声にル・フェイがドアをあけると、香水の香りがぷんぷんする、見たことのない太った男の子が立っていた。出場者のひとり、グラハム・デカで、ほかの出演者のようすをさぐりにきたのだ。グラハムの態度があまりにもひどいので、かっとなったル・フェイは思わず「出て行け、デブ!」とどなる。「デブ」と言われるのがなによりもきらいなグラハムは一気にしょんぼりし、捨てゼリフをはいて出ていった。
 その頃、ジャッキーたちの乗ったバスは、地面にあいた巨大な穴の前で立ち往生していた。バスを降りて歩いて穴を迂回し、向こう側でヒッチハイクすることにしたが、子ども4人を一緒に乗せてくれる車はなかなか見つからない。腹話術師のミスター・ピーチが一緒に待ってくれていたが、先に行ってもらうことにした。そのうちに、子どもたちのほうも乗せてくれる車が見つかる。陽気なノーブルさんのレッカー車で、車のなかではいろんなあそび歌を歌った。
 ル・フェイのほうは順調に顔合わせと食事会が済み、記者会見も終わった。いよいよ、ジャッキーたちをもぐりこませる作戦を決行するときだ。ところが非常口を開けたとたん、非常ベルが鳴り響いた。すぐに駆けつけたホテルの警備員ツィーディーは、非常口に挟まっていたティッシュの箱を拾い上げる。外の通りを見回したが、犯人の気配はなかった。
 ル・フェイは何食わぬ顔をしてそのまま歩き続け、ジャッキーたちとの待ち合わせ場所に向かうr。約束の3時が過ぎても来ないので、いったん部屋にることにした。ホテルのエレベーターの前でツィーディーに声をかけられ、警備員だと聞いて動揺する。「どこかで会ったことがあるかな」ときかれるが、ル・フェイには覚えがなかった。ツィーディーは掃除婦長のミセス・ドーンを呼びだし、ティッシュの箱がなくなっている部屋を探すよう依頼した。
 予定より遅れたものの、ル・フェイとジャッキーたちは無事に会うことができた。ちょうどマルコムが通りがかり、「部屋を見せてあげたら?」と声をかけてくれたので、どうやって部屋にはいろうかという問題はすんなり解決した。みんなは蛇口からお湯がでることにも感動する。まずは全員シャワーを浴び、それからルームサービスを頼んだ。

 翌日、タップ&タイプ社の社長の挨拶でタイピングコンテストの全国大会が始まった。ステージには4つの大きなスクリーンがあり、出場者のキーボードとつながっている。客席の1列目はグラハム一族が占め、ジャッキーたちは2列目にすわった。コンテストは3ラウンドの勝ち抜き戦だ。課題の読み手として登場したのは、なんとバスで一緒だったミスター・ピーチだ。腹話術のテクニックもさることながら、迫真の演技に観客はひきこまれた。
 第1ラウンドと第2ラウンドを経て、勝ち残っていたのはル・フェイとグラハムだった。一時的な停電のあとで最終ラウンドが始まると、ジャッキーはぎょっとした。ル・フェイは自信満々でタイプしているようだが、スクリーンは間違いだらけなのだ。マルコムはル・フェイを準優勝として称え、きょうだいもステージにのぼって祝福する。そのとき、ファーガルはステージ裏にあるケーブルの配線がおかしいことに気づいた。パソコンとスクリーンをつなぐケーブルのプラグの色が入れ替わっている。このことをミスター・ピーチに伝えると、グラハムの優勝スピーチの最中にスクリーンが切りかわった。グラハムとル・フェイのスクリーンは入れ替わっていたのだ。マルコムは停電中に配線ミスがあったと発表し(ズルがあったとは言わなかった)、ル・フェイの優勝を宣言した。

 掃除婦長の報告を受けたツィーディーは、ティッシュ箱事件の犯人をル・フェイと断定した。ル・フェイの部屋で動物の毛らしいものを発見し、ルームサービスで一人にしては多すぎる料理を注文していたことがわかったからだ。おそらく、無断で動物を中に入れたのだろうと推測した。
 タイピングコンテストが終わり、ロビーに出てきたマクナレー家の子どもたちを見てツィーディーは目を疑った。どう見ても、海軍時代の命の恩人、ルーファス・マクナレー大佐の子どもに間違いないからだ。長年ゆくえがわからなかった大佐の家族に会えた喜びに、ツィーディーは生まれてはじめて職務を忘れ、歓喜のダンスを踊った。
 子どもたちはル・フェイの部屋で喜びをわかちあった。賞品は最先端のコンピューターの引換券だ。交換したら生活のために売らなきゃよね、とさびしそうに言うル・フェイに、ジャッキーは「売っちゃだめ。タイピングの能力を活かした仕事をしなさい」と言った。
 そのとき、だれかがドアをノックした。お祝いを言いにきたツィーディーだ。しかし警備員の突然の訪問に子どもたちはパニックになる。必要もないのに隠れようとし、ファーガルは窓の外へ身を乗り出した。「ダメー!!」と叫ぶジャッキーの姿はジャッカルに変わり、1匹と4人は部屋を飛び出した。

 14階から落ちたファーガルは死んでしまった。聖心病院に運ばれ、のうみそは取り出されてビンに詰められた。ジャッキーたちはツィーディーとマルコムに付き添われて家に帰る。ファーガルの死の知らせを聞いたお父さんは、冷たい反応を見せるかと思いきや、声をあげて泣きくずれた。その涙はお父さんのかたくなな心を溶かし、以前のような優しいお父さんに戻った。

 その晩、マスクをした背の低い男が病院に忍び込み、ファーガルののうみそを盗んで夜の闇に消えた。


 いきなり男の子が落ちて死に、お父さんは酒びたりで家庭はまずしい……どうなることかと思いきや、なかよしきょうだいの突拍子もない大冒険がつづられる。まさにシリーズ名そのもの、“Unlikely Exploits”「ありえない物語」だ。マクナレーきょうだいをはじめ、くせのあるキャラクターばかりが登場し、デイヴィッド・ロバーツのイラストもいい雰囲気を出している。
「おばかなおはなし」と作者が銘打っているだけあり、物語はテンポよく、愉快に展開する。それだけではなく、構成も巧みで、ファーガル転落後のできごととファーガル転落までのできごとが交互に語られ、臨場感が高まっていく。ファンタジーやSFの要素も盛り込まれているが、本書の魅力はストレートなおもしろさとマクナレー家の家族愛だ。また、作者がところどころ物語に口出しする構造で、ディビッド・ウォリアムズやレモニー・スニケットを彷彿とさせる。
 本書は全3巻シリーズの第1巻だが、第1巻で死んでしまったファーガルは、第2巻で犬にのうみそを移植されてまさかの復活を遂げる。第3巻では、ついに穴現象の原因と、ル・フェイ、アルビー、ジョシュアに秘められた力が明らかにされる。変なキャラクターもまだまだ登場する。3巻ではタイムマシンが出てきてSF度が高まり、物語は縦横無尽に展開する。最後はまさに「めでたし、めでたし」。心あたたまるエンディングを迎える。
 フィリップ・アーダーの作品は、イギリス色が強い作品もあるが、本シリーズは冒頭で作者が「舞台は誰もしらない国」と宣言しているように、特定の国・文化にしばられずに楽しめる物語となっている。日本の子どもたちにもぜひこの面白さを楽しんでほしい。

シリーズ紹介

第2巻 Heir of Mystery
ファーガルの死に沈む、マクナレー家の子どもたち。気ばらしにいったワンダランドのうらない師に、「ファーガルの体は埋められたが、のうみそは埋められていない」と告げられる。しかもその声は死んだお母さんの声!?

第3巻 The Rise of the House of McNally
ファーガルののうみそを犬に移植した科学者ミスター・マグズ。実は未来から来た科学者だった!? まさかのあの人も未来人だと判明し……。マクナレーきょうだいは時空の歪みを正すために奮闘する。

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