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夫の変化

私の夫は今年の春に5年の定年延長雇用を終了。
長いサラリーマン生活を終えた。

私たち夫婦は、東京から数時間で行ける地方都市に平屋の中古住宅を購入して毎週末を過ごしていたが、2年前にコロナでリモートワークになったことをきっかけに移住。
もともと移住者が多い地域だったため、移住者中心のコミュニティがいろいろあった。
夫は、仕事の合間にテニス、ゴルフ、卓球、麻雀、アウトドア料理など、いろいろな遊びを楽しんでいた。
定年になったら、遊びを中心に過ごすのだろうな、と思っていた。

定年間際、地元の友人からお誘いを受けたのが、「トマトの収穫」。
地域で一番大きいトマト農家が、3日に1回の収穫の手伝いを探している、とのこと。
休みたい時には休めるし、時間も自由でいいよ、なんて言われて、軽い気持ちで、定年と同時に手伝うことになった。

始めてみたら、その労働の過酷さにびっくり。
巨大ビニールハウスで無農薬で育てているトマトは、3日に1回全て収穫しないと枝が弱るから、収穫作業を延々やり続ける。
地面近くの収穫には膝をついて這いつくばい、高く伸ばした枝の上の収穫には台車を使い、わき芽や葉っぱも定期的に取っていく。
摘み取ったトマトは丁寧に扱わないと傷がついたらそこから傷んでしまう。
トマトに合わせた気温の中で、丁寧さと迅速さを求められながら、汗だくでひたすらトマトに向き合う。
さらに、新しいビニールハウスの立ち上げが始まったり、収穫を終えた枝の片付けをしたり、土づくりをしたり、新しい苗を育てたり、定期的に受粉作業まで。
ちょうど繁忙時期に当たってしまっていたみたい。
その度に、「明日も出られませんか」と追加勤務を頼まれる日々。

農業の機械化が進んだといっても、人手に頼らざるを得ない部分の多さ、そして、成長に合わせて人が都合をつけないとタイミングを逃してしまう。
無農薬で美味しいトマトを作っても、価格はなかなか上げられない現実。

「大量生産の工業製品みたいな食品ではなく、人の汗と努力を通して生産された自然の恵みに、きちんとお金を使っていこう」
夫から仕事の話を聞いて、強く思った。

最初は、気楽な気持ちで始めた仕事。
2ヶ月勤めて作業全般を経験した夫。
ハサミを一日中使い続ける作業で効き手が腱鞘炎になってしまった。

ちょうど新しい人が入ったタイミングで、1ヶ月後の退職を申し出た。
「トマトはやり切った」と言っていて、新しい仕事も探してきた。
次は、ゴルフ場の仕事。
ゴルフが好きなので、前からやってみたかった、と。


ちょっと残念、と思っていたら、その後もなんだかいろいろ迷っている。
聞いてみると、「トマトの仕事は大変なんだけれど、終わった後の爽快感が最高なんだよなあ」「人はみんなすごくいいんだ」とブツブツ。

様子を見ていたら、月末になって、トマトの仕事を3日に1回で続けつつ、週2回ゴルフの仕事もやってみる、と言い出した。
腱鞘炎も、慣れないから力が入っていたけれど、だんだん要領がわかって治ってきたみたい。

というわけで、9月からダブルワークをしている夫。
遊びの時間は減ったけれど、ゴルフの仕事の後に練習場が使えるそうで、先輩に教えてもらって、アフターワークもなんだか楽しそう。
お給料はサラリーマン時代と比べものにならないけれど、全く違った充実感を味わっている。
「自分にとって今の仕事は、遊びと同じように楽しいことの延長でできることになっている」と話す夫。

こんな定年後の生活があるなんて、思いもしなかった。
そして、私も、仕事の後の夕食は話題が豊富で、つい2〜3時間かけて話を聞いてしまう。
夫婦の関係も、仕事を通して深まってきている感じがする。











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