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夏目漱石の名作に登場するお茶・紅茶への思い 9

 

Ⅱ 漱石と紅茶 4


 
❹『行人』
 
「自分達は室内の掃除に取りかかろうとする給仕(ボイ)を後にして食堂へ這入った。食堂はまだだいぶ込んでいた。出たり這入ったりするものが絶えず狭い通り路をざわつかせた。自分が母に紅茶と果物を勧めている時分に、兄と嫂の姿がようやく入口に現れた。不幸にして彼らの席は自分達の傍に見出せるほど、食卓は空いていなかった。彼らは入口の所に差し向いで座を占めた。そうして普通の夫婦のように笑いながら話したり、窓の外を眺めたりした。自分を相手に茶を啜すすっていた母は、時々その様子を満足らしく見た。
 自分達はかくして東京へ帰ったのである。」(『行人』 帰ってから3)
  (つづく)

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