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猫の落とし物でわたしは地上絵を描いた


「みゅあー」
と鳴き声がした。
まるまるもりもりとした可愛らしい猫と目があう。

小学生。通学班のメンバーを待っていたときだ。
猫はわたしの足元までよってきた。

「かわいい子だね。どれ、なでてあげよう」

モフモフに触れたくてそろっと手を伸ばす。
しかし猫はわたしの手をかわし、くるっと回れ右をして、
無秩序に生い茂る草木のなかへぽてぽての体を隠してしまった。

追いかけて猫が消えた極小のジャングルをのぞく。
猫はわたしを待っていた。

少し歩いてはふりむき、
また少し歩いては足をとめて、
「にゃー」と鳴くのを繰り返す。

「ついてきてほしいにゃー」ということだろう。

わたしはすべてを理解した。
これは猫の恩返しであると。
だがしかし、目の前の猫とは初対面だ。
感謝される覚えはない。

おそらくは先見の明がある猫なのだ。
未来のわたしが猫族へおおいなる利益をもたらすであろうことを予期して、青田買い的な感覚で、秘密の場所へ招待してくれるつもりなのだ。

この展開、間違いなくジブリである。

猫が行く道は、
「となりのトトロ」にてメイが小トトロ、中トトロを
追って飛び込んだ、あの草木のトンネルwith蜘蛛の巣のようだった。丁寧なお辞儀の姿勢のまますすむ。

大人がふたり横たわったぐらいのみじかいトンネルだった。学校へ向かうべき時間に別のことをしている背徳感が
腹の底を震わせる。

やっべぇ。わくわくする。
ファンタジーがにおいたつ。
四方八方からトトロの寝息が聞こえてくるようだった。

ああスタジオジブリ!!
次回作の主人公はこのわたしだよ!!

視界がひらけて、
雑草だらけの裏庭のような場所にでる。

ぐにゅり

生暖かいなにかを踏んだ。
なんだろう。足元がすべる。

「くさい!!」
においたっていたのはファンタジーではなく、
猫のうんちだった。

みじかいトンネルを抜けると猫のトイレだった。
怒りで視界が真っ赤にそまった。


恩を仇で返しよった!
いや恩はない。仇だけをよこされた!

子どもって残酷だから……。
このまま靴withうんちのまま班員と合流したら、秒であだ名が「withうんち」になってしまう。

「お前の顔を忘れないからな!
全世界からまたたびを消し去ってやる!」

猫に向けて捨て台詞をはいたのち、お辞儀をする。
低姿勢にならないと元来た道を引き返せないからだ。

幸い集合場所にまだ人影はない。それはそれで問題なのだが今は時間にルーズな仲間をありがたく感じる。

火がふくような勢いでアスファルトに靴底をこすり続けた。怒りと焦りの渦中にいながらも、一度うんち色をすりつけたゾーンに同色を重ねないよう用心する。

うんちの上書きになってしまうからだ。

足をずらすときは慎重に。
キャンパス(地面)に足をつけたら大胆に。


わたしはくねくね薄茶色の線を描く。


それはまるで住宅地のナスカ(サイタマ)の地上絵にみえたかもしれない。
その時、上空にいたかもしれない飛行機のパイロットは、ミステリーの出現に胸躍らせたかもしれない。

ひとりふたりとメンバーが集まってきたころ。
表面上、あくまで表面上だけわたしは冷静さをとりもどしていたし、靴は異臭を手放していた。

知らない人についていってはいけない。
知らない猫にもついていってはいけない。

諸君。
知らない世界には危険がいっぱいだ!

追伸 未来のわたしから小学生のわたしへ
   君は猫アレルギーだ。

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