白のアナベル

20歳のとき14歳年上の彼氏がいた。
彼のお父さんは10年前にガンで他界して
彼のお母さんは再婚して、実家はもぬけの殻となっていたため、彼はワンルームのアパートから実家に帰った。
私は彼の実家に週末になると泊まっていた。
金曜日の夜になるとカバンに着替えを詰めて彼の家に向かう。
彼の実家の勝手口から家の中に入ると
キッチンで夕ご飯を作りながら私の帰りを待っていてくれた。
帰ってきてたら、まずは一緒にお風呂に入る。
ゆっくり湯船に浸かり、体を洗ってもらい、髪を乾かしてもらってもらう。
パジャマに着替え、彼の手作りのご飯を食べながらお酒を飲み、ラジオを聞きながら一緒に過ごした。
至り尽くせりの週末。
3時間ぐらいゆっくりお酒を飲んだら、2階に布団ををひいてくれて、一緒に眠った。

朝、目覚めてダイニングの椅子に腰を掛ける。
窓の外を眺めると、新緑が綺麗な庭に、白い紫陽花が咲いていた。
その白い紫陽花はアナベルということを彼は教えてくれた。
窓を開けると、少し肌寒い風と湿った土の香りがした。
焼き立てのピザトーストとドリップコーヒで朝食を食べる。
穏やかな土曜日。
この幸せな日常がいつまでも続きますようにと願った。

私は、彼のお父さんが愛した庭が好きだった。
綺麗な芝生と、四季折々の花が咲き果実が実る。
芝生に座って飲むコーヒーが美味しかったし、
ふたりでゆっくり過ごす時間が現実だけど、非現実な感じがして心地よかった。
しかしそんな時間は永遠に続くことはなくて、
彼は無職だったため、実家を維持することができなくなり、家を売りに出した。
ある日、買い手が見つかったため、実家を手放すことなった。

彼と別れて長い月日が流れた。
美しくて魅了されたあの庭が今でも忘れなくて時々思い出しては、あの頃が懐かしく感じる。

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