好きが一瞬で冷めるとき。

「結婚したら子供は5人欲しいな。」
当時付き合ってた彼に言われた言葉。
私も彼となら楽しい家庭を築けるだろうなと思っていた。

彼と出会ったのは私が20歳の頃、場所は海だった。
先輩と一緒に海で遊んでいるところを彼にナンパされた。年齢は27歳で職業は自営業と聞いていた。
私が彼のアパートに入り浸るようになってしばらくくたった頃、彼は34歳で研究職をうつ病で退職し、無職であることを打ち明けた。色々嘘をつかれていたことに衝撃をうけたが、好きになっていたためそれだけで嫌いになることはできなかった。全てを受け入れて私達は付き合うことにした。

私達は海が好きで、夏になると珠洲まで泳ぎに行っていた。朝早くから珠洲に向かい、のんびり下道で帰った。夕日で赤く染まる海沿いを眺めながら帰路につく。途中温泉に寄ったり、どこかで上がる花火を一緒に見たりした。能登の星空は本当に綺麗でずっと眺めていられた。

彼は元エボバの証人だった。彼の実家の部屋にお姉さんとやりとりしている手紙を見つけた。信仰心についての内容がほとんどを占めていた。彼の家庭は熱狂的信者だったが、お父さんがガンで亡くなってエボバの証人を退会したらしい。
家のあちらこちらにはイエスの言葉が貼ってあった。宗教でいじめもあって友達が居ないということも打ち明けられた。幼少期、苦労したところは似たもの同士であった。
そんな彼と一緒に過ごして2年が過ぎた。彼は今も無職だ。たまに友人が店長をしているお店を手伝っているが、就活をする様子はない。
「なぜ就職しないの?」と聞くと「やりたい仕事がないから」と言っていた。半導体の仕事がしたいと言っていたけど私にはよくわからなかった。
仕事がないなら、都会にいこうと思った。タイミングよく彼の実家が売却され、住む場所もなくなったため、名古屋で働いてみないか提案したら彼も了承してくれた。その夏、公務員試験に合格して市民病院に就職を決めていた私だったが、それを蹴って、名古屋に就職を決めた。名古屋にいけば彼も働いてくれるだろうと思った。
冬に彼は名古屋にアパートを借りて、少しばかり遠距離をした。そして私も春に寮に引っ越しをした。
彼はまだ働いていなかった。今から思えば、売却した家のお金があるので、働かなくてもよかったのかもしれない。
その後、非正規雇用で仕事をはじめた。結婚するなら正社員でと頼んであったが聞き入れてくれなかった。
彼の家賃以外は、私が支払いをした。新入社員で安月給だったが彼を支えたいと思ってお金を渡した。毎週末になると彼はどこへでも連れ行ってくれた。
私は全然嬉しくなかった。仕事で疲れてたし、寝ていたかった。持ち帰りの課題も沢山あった。休みたいというと機嫌が悪くなるので仕方なしついていくが、車でずっと眠っていて、不機嫌な私の態度でさらに不穏な空気が流れた。以前楽しめたことも社会人になると、楽しめるほど余裕はなかった。朝7時に出社して帰宅は22時。そこから課題をこなして就寝は2時。体力も精神も限界だった。食事も入浴もめんどくさくて、就職して1ヶ月で5kg、半年もしないうちに10kg痩せた。
彼はそんな私の様子に気づいてないようだった。ある日仕事を辞めたいと言ったら、「働け」と言われた。非正規雇用で残業なしで今まで無職だったやつに言われて、糸がぷつんと切れた。
その日、私は彼とお別れをした。

しばらく彼は寮の前に張り込まれて何度か謝罪を受けた。だけど私は彼を許せなかった。将来性がない彼と付き合う気にもなれないし、そもそも寮にストーカーされるのが嫌で嫌でならなかった。

数ヶ月たった頃、彼から一通のメールと写真が添付されていた。荷物が空っぽになったアパートにリュックサックが1つ写っていた。内容は仕事を退職したので自分探しの旅に出ますという内容であった。私は『行く場所を間違ってませんか?ハローワークに行って下さい。』と返信した。そしたら『正社員はそんなに偉いのか?良いご身分ですね。』と返信が来た。
私はこのメールを見てやっと悟った。この人は今まで働けないのではなく、働かない人だったんだってことが。
無責任に結婚したいとか、愛してるとか言われて喜んでた自分がアホらしくなった。

彼に対しての思いれは全く無い。
あんなに好きだったけど一瞬で気持ちは冷めた。
この経験から私は好きだから結婚したいではなくて、誠実で、健康な人と結婚したいと思うようになった。

私の20代前半の恋愛は、心の隙間に入ってきて優しさで満たしてくれる人が好きだったように感じる。大人になって寄り添える人に出会えて、私の自傷行為は減っていった。自分でも20代もったいないことをしたなと感じることもあるが、カミソリを握らなくてよくなったのは、彼のおかげだった。当時は、悲しかったけど、今思えばこの恋愛も悪くなかったなと思える。

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