晩餐

 三人家族が幸せに暮らしている。可愛い娘はまだ小さくて、好奇心旺盛だ。娘が走り回れるように大きな家に引っ越した。かくれんぼや鬼ごっこを家族でよくする。父も母も娘を愛している。父は母を愛し、母も父を愛している。三人は幸せに暮らしている。

 でも、幸せは続かない。

 まだ幼い娘は病気になりました。1度でも薬を飲み忘れると死にます。その薬はゼリー状で、夕飯の代わりにそれを食べなくてはいけません。「子供でも食べられるような味」医者はそういっていました。母はこれで娘が助かるならと毎晩夕飯にそれをだしました。その薬は健常者が摂取すると死に至るので、母と父は食べれません。でも娘の夕飯だけゼリーというのは可哀想なので父と母もその薬にそっくりな市販のゼリーを夕飯にしました。最初は楽しそうに食べていた娘ですが、やはりずっとは無理です。何せ娘はもう8才になっていましたから。「もう、ゼリーやだ。」娘は泣きます。でも、食べさせるしかないのです。母は無理矢理口にゼリーをいれます。病気のことはまだ娘には言っていません。でも、もう伝えなければ、そう思っていました。もっと早く伝えればよかったですね。


母が死にました。



母が死んだのは薬のゼリーを食べたため。

殺してしまったのは娘です。

いや、殺したのは娘です。

 娘は徐々に動かなくなっていく体に戸惑っていました。そしてそれは夕飯にゼリーが出始めたぐらいからだと思ったのです。夕飯にゼリーなんておもしろい。最初はそう思いました。でも母は無理矢理食べさせてくるし、なんだか様子がおかしいです。そして偶然みてしまったのです。母が私の分を怪しい袋からだしているのを。間違いない、私にだけ毒入りのゼリーをだしている。理由はわかりません。父に相談しようかと思いました。でも最近家に帰ってきません。悩みました。泣きました。でも生きたかった。だからゼリーを入れ換えることにしました。まさかひと口で死ぬなんて思いませんでした。ひと口食べてすぐの母の顔が忘れられません。目を見開いて驚いていました。やっぱり味も違ったのでしょうね。その後胸をおさえて苦しそうに床に倒れこみました。「ごめ……ん…ね……。」それが最期の言葉でした。私は泣きました。後悔しました。父に電話をしました。「お母さんを殺しちゃった」父はすぐに帰ってきました。父からは香水の匂いがします。私は全てを話しました。父は泣きはじめました。「俺はバカだ……ちゃんとっ……支えていたらっ…………」子供のように泣きじゃくりました。 ようやく落ち着いたかと思ったら、父は母が最期に食べたゼリーを口にいれました。とめられなかった。気づいた時にはおそかったのです。父も母のように死んでいきました。私は1人になりました。悲しくなりました。私も死のう。ゼリーを食べました。でも死ねません。なんで、なんで、なんで、

毎食ゼリーを食べました。でも死ねない。腐敗していく父と母の遺体。私は今日もゼリーを食べる。













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