それは遠い国の物語

 畳まれずに散乱した洗濯物、机には食べ終わったアイスの容器、机にちょうどよく寄せられた人をだめにするクッション、その横に重ねられた本や雑誌。今日は自分を甘やかさす日、そう決めていた。トイレからでて、また人をだめにするクッションに寄りかかる。「家から出てはいけない」そう言われてから1週間が経った。家にずっといるのだから暇だろうと思っていたが、実際は旦那のために手の込んだ料理をしてみたり、全然シワの伸びない頑固な衣服にアイロンをかけたり、掃除に洗濯に、と忙しく動きまわっている。2日前に身体のだるさを感じ、家にいても働けば疲れるのだな ということに今更ながら気づいて、お休みを設けた。旦那もまだ帰ってこない、今日はしょうが焼きを作るつもりだから、しばらくだらだらしても夕飯の支度は間に合う。しょうが焼きは旦那の好物。簡単にできるので助かる。きっと今日もまた大袈裟なぐらい喜ぶんだろうな。喜ぶ姿を想像してふふっと笑う。それまでは私も私の時間を楽しもう。私はまた小説の世界に入った。冒険して、空を飛んで、戦って、旅行に行って人生変えて、仕事のトラブルを解決して、夢を叶えて、大切な人と過ごして、恋をして、大事な人とキスをして、おいしい物を食べて、遊んで、手を繋いで、走って、歩いて、笑って、泣いて、怒って…この世界でなんでもできる。私の物語ではないのだけれど。私は幸せに満たされた。少しの寂しさもある。                                                                    なんだか、眠くなってきたな…。












「本日、5人目の感染者が発見され、死亡が確認されました。死亡した女性は…」アナウンサーが淡々とニュースを読み、泣き崩れる感染者の夫の映像が流れる。「かわいそうにねぇ」とお茶の間の奥様はつぶやく、そしてチャンネルを変えお笑い芸人のネタに笑った。

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