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沖縄そばとジューシーと

病院からの帰り道、おなかがすいた。ランチをしよう。
だが、時間はすでに2時近く、お昼休みに入る飲食店も多い。
最近食が細くなってきた(ような気がする)、普通の飲食店での食事では多すぎるかも、コンビニのおにぎりで済ませよう…と迷っていたら思い出した。

少し郊外に沖縄そばを出してくれるお店がある。マスターは気さくで一人でも入りやすい。あそこにしよう。

駐車場に車は1台だけ。のれんも出ている。これはラッキー。
すぐに店に入った。すでに2時を回ろうとしている。からからと扉を開けると中から店員さんがでてきた。「いらっしゃいませ!今日はこれがおすすめですよ」
ゆし豆腐がたっぷりのった沖縄そばとジューシーのセット。しばし考える。

沖縄そばにジューシーは想定外。果たして完食できるだろうか?今日は一人なので、手伝ってくれる夫もいない。おすすめ…ならば、それにしよう。なんとかなるでしょう!

カウンター席に通され、コートを脱ぐ。人懐っこいマスターは先客とおしゃべり中。沖縄ソングはインストロメンタル。水を飲みながら、聴くともなしに耳に入ってくるのはマスターと先客との話し声。
「ナイトライダー!知ってる?」
「うーん、どんなのだっけ?」
「車のさぁ…」
懐かしいドラマの話から話題は最近のバイクや地域活性、さらに私の知らないの話へと移っていく。
知っている曲が流れてきて、小さく鼻歌を歌う。

「揚げたてのサーターアンダギーができましたよ。お一ついかがですか?」
ゆし豆腐のたっぷり入った沖縄そばとジューシーを持って来た店員さんが言う。
まずは完食を目指そう。
お出汁のいい香り。
昆布だしが効いたお出汁をまずはいただく。寒い日にこのお出汁はありがたい。
今日は風が強い。雪こそ降っていないが、冷たい風にさらされて顔や手が冷たかった。暖かい店内で少しずつ温もりが戻ってきたところにこのお出汁は沁みていく。
醤油味のガツンとした味も美味しいけど、沖縄そばのこの透明なお出汁は格別。
麺は少し灰色がかっている。やや細いストレートな麺はお蕎麦ともうどんともちょっと違う。ゆし豆腐がふんわりと乗っている。レンゲですくっていただく。うん、美味しい!
「こちらの醤油はジューシーにかけて、味変をしてみてくださいね」
では、ジューシーも「いただきます」(気分は井之頭五郎だ)う〜ん、豚肉の旨みを吸ったご飯が美味しい!細く切った昆布がいい仕事してる!

「じゃあ、今度きてよ」
先客にマスターが声をかけている。すでに入り口に向かって店を出ようとしていた先客が、振り返って一言二言言って店を出た。

私の沖縄そばは計算を間違えてしまったらしく、お出汁の減りが異常に早く、麺が残っている。ジューシーは醤油をかけることなく最後まで美味しくいただいた。あ、そうか。ジューシーを食べている時、無意識でお出汁だけ飲んでいたんだ。慌てて麺を啜る。コーレーグースをかけて味変、泡盛の香りが鼻を抜ける。

しっかり完食し、席を立つと先ほどの店員さんが笑顔でこちらを見ている。でも、もう流石にお腹いっぱい。
「ごちそうさまでした。サーターアンダギーはまた今度にします」

体の芯から温まった。戸を開けると、相変わらずの強い風。一気に汗が冷めてしまう。コートの前をキュッと閉めて一歩外に出たら、看板にぶつかってしまった。最後は井之頭五郎のように颯爽とはいかなかった。

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