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まっすぐな努力が報われない世界なら、遠回りをすればいい

1年間通った声優の養成所のプログラムがもうじき終わる。残り2回のレッスンを残した今日、従事した先生から、ひとりひとりに封筒が渡された。

このなかに、4月からの進路を決める1枚の紙きれが入っている。

上に上がるか、落ちるか。

その二択しかない。

封筒を配る前、先生は言った。

まず、絶対に家で開けること。なぜなら、過去に稽古場の前で阿鼻叫喚となり、ずっと泣き続ける生徒さんなども現れたから。

次に、精神的なダメージを受けたとしても、休みの連絡はちゃんとすること。これは憶測だが、きっとよろしくない結果を受け取った生徒さんが投げやりになり、ボイコットすることが多いからなのだろう。

その2点を伝えたうえで、先生はこう続けた。

残念ながら、今は声優になりたい人が多い。だから、もしこのタイミングじゃなければ上にあがれた人もたくさんいたと思う。そういった運の要素も大いに関係している。

加えて、どんなに技術があっても、演技がうまくても声優になれるとは限らない。何なら、なったあとも事務所に所属しているだけでまったくお仕事のない声優も多々いる。

声優とは、芸能の仕事だから、努力が報われるとは限らない。生まれ持っての才能、カリスマ性、そして運やタイミング。何ならそれらをすべて持っていたとしても、なれるかどうかわからない。そういう世界なのだ。

それを踏まえたうえで、続けたい人は続ければいい。

演技をするのが楽しいな、こんなセリフを言うのが面白いな、そんな気持ちがあるならば、事務所との相性やタイミングもあるから続ければいい。

でも、なかには5年も頑張っているから、10年も頑張っているからと、惰性で続ける人もいる。生活が苦しいなかで、バイトをしながら続ける人もいる。病気をしながら続ける人もいるだろう。もちろん、楽しいならそれでもいい。

でも、ほとんどの人にとって、人生は、これからのほうが長い。好きかよくわからなくなってきているのになんとなく続けるんじゃなくて、たとえばこういう機会に立ち止まって、本当にやりたいことなのかどうか確かめてほしい。

それほどに、この世界は厳しいから。

きっと、先生は今までとても苦労をしてきたんだろう。期待して、絶望して、報われない努力に、悔しい思いをしてきたんだろう。それに加えて、何人も夢を諦めた生徒さんや仲間を見てきたんだろう。

期待させるようなことは決して言わない。極めて現実的で、とても優しい言葉だと思った。

わたしも、どちらかというと極めて現実的な思考を持っている。

根拠はないけれど、自分は、声優になれるとは思っている。

何なら、今もナレーションの仕事でお金を頂いているのですでに声優なのだと思う。

ただ、売れるかどうかはまた別の話だ。

かつて、一緒にレッスンを受けて声優になった仲間たちのなかには声優としてごはんを食べられている人もいれば、辞めてしまった人もいる。そして夢を叶えたにも関わらず、苦しんでいる人も知っている。

でも、わたしはそれが、どうして苦しいのかもわかっている。

声優一本で、生活費を賄おうとしているからである。

もちろん、声の仕事だけで生きることをみんな目標にしているとは思う。

でも、現実問題、声優が溢れている今となってはそれは夢物語に近い。

変な話、わたしが妙に落ち着いているのは、ある程度社会で経験値を積み、スキルを身につけ、自分でお金を稼げる基盤をがっちり固めてきたからだ。

金銭問題で親と衝突し、夢を諦めた無力だったあの頃から、ずっと考えていた。

どうやったら、確実に夢を叶えられるのか。

それは、夢でマネタイズしようと考えないこと。生活費を稼げる術を身につけること。

随分と遠回りしたかもしれない。

でも逆に、遠回りしたからこそ、逆に何も心配することがなくなった。

身につけたスキルを使えば、わたしは時間とお金を生み出せる。そして、その時間とお金を、延々と声優のために使える。

わたしにとって、声だけで演じることは、ライフワークである。純粋に楽しいのである。その楽しいことを、声が枯れない限りやっていたいのである。

そこにお金がいるか、と言ったら。もしかしたらいらないのかもしれない。

遠回りかもしれないけど、そんな夢の叶え方もあるんだよ、と言ってみる。

努力は報われないかもしれない。だったら、夢との付き合い方も、正攻法から変えていく必要がある。

まだ夢の途中。でも、たぶん大丈夫。

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