見出し画像

おっさんだけど、仕事辞めてアジアでブラブラするよ\(^o^)/ Vol, 79 気持ち

エスファハーン
2023.1015 Sun
 
サッシ屋で、建材の配送業に就いていたときのことです。
暑い日でした。東京の夏はケニア人でも参るくらいの不快さを誇りますが、その日は特に暑い日でした。
工事現場に建材を降ろし終え、わたしは2tロングトラックの運転席に座り、エンジンを掛けました。エアコンはもちろん全開。両方のウインドーも全開にし、そしてトラックを降りポロシャツを着替えます。搾れるくらい汗をかいていました。
持参している水筒など、とうの昔に空です。同僚とともにすぐ目の前の自販機に行き、ペットボトルのジュースを買いました。
そのとき、ふと工事現場の入り口に立っている、交通整理のおじさんが目が留まりました。規則なのでしょう、おじさんは長袖長ズボン姿で、制帽まで被っています。
“大変やな…”
そのときたしか、わたしは40歳を越えていました。人生についていくらかは知っていますし、体力がピークを越えて下がっていく感覚ももちろんわかります。

労働って大変ですよね? 本音を言えば、というか、言うまでもなく働きたくない。でも、これはある種の偏見でしょうが、大陸の人たちって、そんなにあくせく働いている感じがしないのです。どうなんでしょうね? 仕事について、一度じっくり海外の人たちと話し合ってみたいものです。

なんとなく、本当になんとなくですが、ジュースをもう1本買いました。そして、交通整理、通称 “旗振り” のおじさんに声を掛けたのです。
「今日マジで暑いっスね」
ジュースを手渡すと、おじさんは真っ黒に日焼けした顔をほころばせました。
「いいんですか? ありがとうございます!」
おじさんはその場で半分ほどを一息で飲み、そして大事そうにフタを閉めました。
トラックドライバーとして、わたしは交通整理という仕事の過酷さを知っています。一日中立ちっぱなし。交通量が多ければサイアクだし、少なければ暇過ぎてこれまたサイアク。そして、ドライバーと “旗振り” の間には明確なヒエラルキーが存在し、ちょっとでもミスをしようものならドライバーから容赦のない罵詈雑言が浴びせられるのです。
 
「ええっスよジュースくらいでそんな…。明日も来るんでお願いします」
そう言って立ち去るわたしの後ろ姿に、おじさんはなおも礼を言い続けました。
わたしは思いました。
“良い金の使い方をしたな” と。
“こんなに喜んでもらえるのなら、ジュースくらいガンガン買って行こう” と…。

 “人にやさしく” おっさんになったいま、やっぱりそれが一番のような気がするときがあります。自分ができているかどうかは別として…。
ちなみに “人にやさしく” のくせして『気ーがーくーるいそおー!』から始まるって、やっぱりヒロトは天才すぎますよね!


今日、イランはエスファハーンの路上で、ストリートミュージシャンを観ました。ユニットを組み、スティールパンを使って、不思議な音楽を奏でていました。
基本は同じフレーズのリフレイン。楽器の触る位置や触り方によって音階が変わるらしく、二人は指や手のひらなど様々なやり方で演奏を続けています。一人が主旋律を奏で、もう一人がそれに乗っかり音楽的な厚みを加えていく。二人の間ではそれだけで充分なのでしょう、彼らは一言も交わすことなくアドリブを繰り広げ、いつしかまた主旋律のリフレインに戻っていきました。
なんとも心地の良い音楽でした。どこのなんというジャンルの音楽なのか想像もつかないながら、それでいてムスリムっぽくもあり、そしてなによりペルシアっぽくもある。
彼らの正面、目立つ位置に居たわたしは、いったん彼らを遣り過ごし、近くの木に身体を持たせかけました。そこで、彼らの演奏に聴き入ります。

イランの足場はパイプ組みです。日本と同じく、直行クランプを使うんですね。

日本ならそういうことをほとんどしません。なぜなら、そういう習慣が無いから。わたしを含め多くの日本人は「人様に金を与える」という行為に抵抗を持っているのではないでしょうか? 金額が少なくても偉そうだし、多すぎても金持ち気取りの嫌な奴だし…。
でも、ここはイラン。外国です。わたしは財布から、手持ちで一番大きい額の紙幣を選びました(約170円ですが)。それを彼らの目の前に置いてある楽器ケースに入れ、再び少し離れた場所から彼らの演奏に聴き入りました。
しばらくして、彼らのリズムに変化が出ました。そして、静かな盛り上がりの中、演奏は終了しました。
日本ならどうでしょうか? 
でも、ここはイラン。外国です。迷うことなくわたしは拍手しました。つられてまわりからもチラホラと拍手が…。演奏者と目が合い、一礼し、わたしはその場をあとにしました。

縦目4灯! イランではこの年代物のピックアップトラックがガンガン働いていました。


20mほども歩いたでしょうか。後ろから声を掛けられました。振り返ると、はたして先程のミュージシャンでした。
「ありがとう! これ、もらってくれよ」
満面の笑みで、彼はペンダントを手渡してくれました。
これで、わたしのペンダントは、タジクの少女からもらったのに加え、2つになりました。
 
プレゼントというものは、良いものです。なにが良いって、その価値を自分自身で決めることができるからです。
この2つのペンダントは、わたしだけのものです。
世界に1つずつしかない、わたしだけのものです。 

もちろんこういうのもいいんですが…。
わたしはこういう味もそっけもない猥雑なストリートが好きですな。


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?