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夏の砂の上 へ

舞台「夏の砂の上」についての感想と報告です。
一部シーンの ネタバレしています。

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ゆっくり ゆっくり噛み砕く。
そんな印象の話だと思っていました。

実際に舞台を観る前は 原作(戯曲)を先に読み、あっという間に読み終えてしまいました。
このストーリーを2時間の舞台でどう表現するんだろう?
何かを見出すように、噛み砕くように理解する舞台だろうか?と、正直、楽しみでありながら構えていました。

11月26日、27日兵庫公演。
外は もうクリスマスイルミネーションが飾られてる晩秋。
27日(日)のチケットを手に田中圭さん演じる 小浦 治という人物に会いに行くことになりました。
(※舞台を観に行くことを会いに行くと書いてます)

27日の公演は昼と夕方の公演2回。
昼は2階後列、夕方は1階前列からの観劇。

ふと劇場内が暗くなり開演のブザーもなく、ぼんやりとした照明に照らされた畳敷きの部屋にいつの間にか小浦がそこに居たのを認識して、ハッとし。
その瞬間から私は茹だるような夏のあの部屋の中に閉じ込められてしまいました。

2階からの観劇は照明や音響が全体的に見渡せて、舞台上の演者全員がすっぽり視界に入るのでとても分かりやすかったし、甘いタバコの香りが最後列まで香ってきて、嬉しかった。
(実際は本物のタバコではなく体に害は ないそうです)

小浦を生きる田中圭さんは 普段からの想像とはかけ離れたくらい歳をとった中年のおいちゃんでした。
今まで演じた どの役とも違う、見たことの無い役。熟した大人の色気だけは漏れていて、自分の胸がキュッと締め付けられる音が聞こえました。

1階の最前列からの観劇は目線が小浦家の床なので、うちわが置いてある位置は全く分からなかったが役者がする目の演技がよく見えたし、シーンの切り替わりで 劇場内が暗転してもスタッフや役者さんが動く気配も分かってとても貴重な体験だった。

小浦が無言で 虚ろな目をしたまま弁当をうちわで冷ますシーン。
2階からはまるでジオラマをのぞき込むような感じで弁当の中身(のり弁)を確認したが、1階からは弁当の中身は見えないが 目の前で色気を醸し出してるタンクトップ姿の小浦がうちわで扇ぐものだから。美味しそうな匂いも漂ってきて。のり弁=ドキドキの構図ができてしまい、この先のり弁を食べる度に思い出しそうなシーンになりました。(私得)

初めて聴くセリフが程よく慣れた方言で、聞き慣れてない私は新鮮で不思議な感じだったが、すぐに聞き慣れてしまいました。
もう、そこには小浦のおいちゃんしか存在してませんでした。

―細い描写の感想については略―

この舞台の受け取り方は人それぞれ違うのだろうけど、私が受け取った感想は 優子と小浦が同じように大切なものを失った喪失感と誰か(何か)に捨てられた気持ちを一緒に過ごすうちにどこかで共有してて、一種の絆のようなものを感じていたと、思いました。

小浦が寝転びながらタバコを吸うシーンと優子が向こうの家(立山さん)の幸せそうな家族の話をする時の遠い目が同じだったし、断水中に降った雨水を浴びるように交互に飲みあってる姿が歓喜して見えるのにどこか切なく感じさせてるのは この2人の演技のすごさだろうかと。

小浦が終盤に 無くした子供のことを話すシーンは 照明のせいなのか、白髪が増えて干からびていくような 双眸で、序盤の小浦よりもさらに歳をとったように見え、思わず目をこすながらその顔をガン見してしまいました。
ひとつの舞台中にこんなに歳を取る人物を私は今まで見たことがありませんでした。

舞台中に 成長する役者ってすごいな。失敗するリスクを持ちながら毎回、何かにチャレンジしてるってことだから。
失敗を失敗したままで終わらせないのが またすごい。と、思ってましたが、これはもはや失敗でもないんだな。と思いました。何かアクシデントがあってもリアルに人物の人生を生きていく。当たり前のように。

田中さんのスペックがどんどん進化してるを目の当たりにして、ここまですごいんだ!と再確認しました。

物語は特に大きな変化はなく淡々と小さな出来事が進んでいくと思ったが とんでもなく肉厚な背景が潜んでいて、舞台ならではの間合いが色濃く落とす夏の影のように印象づけていき、本当に余韻の長い舞台でした。

あの時は ああだったよね? これはこうだよね…と後で誰かと話したくなるそんな 舞台。

この舞台を観れて本当に良かった。

小浦は失業や別れや指切断など 救われない人だが、苦悩や虚ろな目やボヤっと出てくる優しさがあって、ちゃんと そこに存在してて、ちゃんと そこに生きていました。
田中さんの演じるではなく生きるという意味がよく分かる舞台でした。

そんな極上の舞台をありがとうございました。
そして長野公演では無事に大千穐楽を迎えられて本当に良かったです。

また、誰かを生きる時は何が何でも会いに行きたいです。

以上、感想と報告でした。

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