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ナナトコイノズシ

「ナナトコイノズシ」

聞いたことのない人にとってはまるで呪文のように聞こえるかもしれない。

鹿児島でいう「七草がゆ」のことだ。

漢字で書くと「七所の雑炊」。

昔、七つになった子どもたちが晴れ着を来てとなり近所の七軒の家を回り、餅入りの七草がゆをもらって歩いたことに由来する。

いまも鹿児島では1月7日に神社で「七草祝い」、地域で「七草祝い」がおこなわれる。こういう風習はよそにないのか、1月7日の夕方の全国ニュースで紹介されていた。

自分が子どものころはどうだったろうか。ハロウィンのようにご近所さんを回って、七草がゆをもらったことがあっただろうか。2、3軒回ったかもしれないが、すでに記憶はあいまいである。

家で七草がゆを食べたことは覚えている。言ってしまえば「草入りのおかゆ」なので、それほど好きな食べ物ではなかったが、朝におかゆが出てくる非日常感にだまされて、おとなしく食べていた気がする。

大人になってからは、わりとまめに一月七日はおかゆを炊いている。焼き海老で雑煮の出汁をとるようになってからは、七草がゆをいただくのが楽しみになった。出汁を少し取っておいて、それで七草がゆをつくるとてもおいしい、と乾物屋のご主人から教わったからだ。

今年も三箇日で食べきれなかった出汁をとっておき、5時半起きで七草がゆを炊いた。鹿児島流のナナトコイノズシには餅が入るのが正式らしいので、小さくきざんだ餅も入れて。

鍋いっぱいの焼き海老の出汁は元日に味つけしてあるので、調味は不要。それでも、三日間煮返したおかげで少し煮詰まって風味が濃くなり、塩味はまろやかになっている。その出汁で炊いた七草がゆは最高においしかった。

ナナトコイノズシは『さつま料理歳時記』(著:石神千代乃)によるとかすかな味噌味がしたとか。ひょっとしたら、焼き海老の出汁など邪道なのかもしれないが、焼き海老のコクと塩味、ほろ苦い七草、あまい餅で寝起きの冷えた体があたたまった。

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