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「レタス巻き」と「九州パンケーキ」の社長が考える、これからのビジネスのありかた_『九州バカ〜世界とつながる地元創生起業論』(村岡浩司 著、文屋)

「本の企画を立てさせてください!」

村岡浩司さんの講演会終了後の名刺交換でのこと。感動した私の口を突いて出たのは、このひと言だった。

だって、こんな話は聞いたことがない。

「九州が大好き」
「九州にしか興味がない」
「九州だけ生き残ってくれればいい」

「宮崎は〜」「鹿児島が〜」と言う人は数多いるが、「九州」を主語にして話す人を初めて見たから。しかも、こんなに熱く。この考え方をたくさんの読者に届けたい。そう思ったのだ。

村岡さんは、レタスと海老、マヨネーズソースを入れた巻き寿司「レタス巻き」の元祖、一平寿しを経営する会社の2代目だ。寿司屋を継ぎたくなくて、高校卒業後はアメリカに留学。帰国後に立ち上げた事業が失敗して実家に戻り、その後は寿司屋と並行してカフェ経営、宮崎県内のまちおこしにも力を入れてきた。

2012年には「九州パンケーキ」という名のパンケーキミックスを開発し、その人気を全国規模に押し上げた。テレビ番組「カンブリア宮殿」で特集されたため、ご存じの方も多いと思う。九州パンケーキを提供するカフェは、台湾を皮切りに、海外進出も目覚ましい。2020年代半ばまでにアジア地域で27店舗を展開予定。ミックスは国内約3000の店舗で販売され、国外の販路もどんどん拡大している。

冒頭の言葉を伝えたとき、村岡さんはすでに初の自著を執筆中だった。先日、その本が発売された。タイトルはずばり、『九州バカ〜世界とつながる地元創生起業論』だ。

村岡さんの講演と同じく、この本もめちゃくちゃ熱い。その熱に浮かされるようにして、288ページを一気に読んだ。ご自身で書いたためか、言葉の一つひとつに力がある。何気ないように見える言葉にも注釈が付けられている。魂がこもっているのだ。

自分の持ち場である「地元」を守ることが日本を元気にする。そう村岡さんは主張する。いたずらにイベントや補助金に頼っても、本質的にまちを元気にすることにはつながらない。村岡さんは、まずは本業を軌道に乗せ、その利益を地元に還元することを考えている。そのため、自社の社員のみならず、起業家たちが交流し、地元活性化のアイディアを生み出すための拠点「MUKASA-HUB」もオープンさせた。

人口減少のフェーズに入った日本国内で、自治体単位の経済成長を考えるのは限られたパイを奪い合うだけになる。国境や県境は人間がつくり出した架空の概念に過ぎない。九州を一つの大きな島としてとらえ、各地域の当たり前の価値を掛け合わせて、新たな価値を創造してはどうか。国内外の人が「九州」と聞いたときに、北海道のような共通イメージをいだけるようなブランドにする。そのために必要なのが、「地元創生起業」だというのが村岡さんの考えだ。

大好きな地元への想いを、いつも根っこに持っていたい。できたら、地元にある地域課題を解決するための手法を、事業に織り込んでいきたい。地元に愛され、育てられて、なおかつしっかりと稼ぎながら、成長への欲求も否定せず、利益は地元へ還流するエコシステム(ビジネス生態系)を生み出すビジネスの創造。それを僕は「地元創生起業」と呼んでいます。(P.25)

「九州」を切り口にした村岡さんの起業論は、きっと読む人をわくわくさせると思う。本を読み終えて目を上げると、地元がさらにいとおしく感じる。手詰まり感を感じていた地元の活性化の進むべき道が見える気がする。

鹿児島を拠点とするライターとして、「九州」やそれを構成する地域の魅力を「翻訳」・「再構成」し、世界に発信していく。そんな仕事もできるのではないかと考えている。