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イツカマタ、ドコカデ。(過日の夢)

夕暮れの町を歩いていたら、向かいから急ぎ足でやってきた青年が、ぴたりと足を止めた。ひょろりと背の高い青年の黒目がちな瞳が、あたしを見おろす。

オヒサシブリデス。
え? 
オゲンキソウデナニヨリデス。
思いのほか高い声。早口であるせいか、どこか異国の言葉のよう。
えっと、あの。
リスノコタロウデス。
は?

あたしの戸惑いなどお構いなしに、青年は「デハ」と会釈をし、
「イツカマタ、ドコカデ」
足早に去って行くその後ろ姿に目をやって、ああ、と思う。

薄茶色のシャツの裾に、しっぽがある。
ふさふさとしたしっぽが、くるんと巻きあがって揺れている。
ああ、あれは、リスノコタロウ。
子どもの頃、飼っていたシマリスの小太郎だ。

ケージを掃除しようと開けた扉の隙間から、するりと逃げて、それきり戻ってこなかった。飼っていたのはほんのひと月ほどだったのに、憶えていてくれたなんて。あんなに大きく、立派になって。

小太郎が、西日射す商店街を歩いて行く。
金色に輝くしっぽを揺らしながら、軽やかに去って行く。

いつかまた、どこかで。ね。



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