my short story #1 人生最高の旅

 私のひとつめの家族は4人家族。シングルマザーの母、祖母、そして母の弟である叔父。大人たちはいろいろあったのだろうし、その結果の家族構成なのだろうけれど、幼い私はただただ楽しく幸せに暮らしていた。
 母が結婚し、この家族は解散。父と母と私、というふたつめの家族で暮らしはじめた。

 ある年末に、母と祖母と私で、旅行に行くことになった。父の計らいもあったのだろう。行き先は日本から約4時間のビーチリゾート。母にとっては親孝行、祖母にとっては初めての海外旅行。この日のために祖母は人生初のパスポートを作ったというのに、当日、現地にまさかの台風直撃。フライトは欠航。しかし、母のとっさの手配で旅行自体はキャンセルにならなかった。常夏のビーチリゾート用の荷物を詰め直し、向かった先は12月の長崎。海外には行けなかったが、長崎は素晴らしく、祖母はとても楽しんでいた。のちに母と「おばあちゃん、折角パスポートとったのにねぇ」「うん、でもパスポート作るときも嬉しそうにしてたし、それもいい思い出」と2人で懐かしんだ。

 旅行から2年後、祖母は亡くなった。私にとって身近な人を亡くす初めての経験だった。葬儀では泣けなかった。家に帰り自分の部屋で1人、夜中になってようやく涙が溢れて止まらなかった。

 祖母の最後の家族は、伯母夫婦との3人暮らし。夏休みや冬休みに、祖母と一緒によく遊びに行っていた家だ。私1人で遊びに行くようになって数年後のある日、祖母が使っていた箪笥の引き出しを、何気なしに開けてみた。

 引き出しの中には、手帳があった。開いてみる。数年前の12月の1ページ。写真になんて残さなくても、今でもはっきりと思い出せる。懐かしい祖母の字で書かれた一言。

 「人生最高の旅」

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