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クズなわたしで生きていく★はっぴーの家ろっけん⑤

突然なぜか、産んだ覚えのない息子ができた。

14歳。

まだ綺麗な高音で唄えるソプラノボイス、まあるい笑顔がとってもチャーミングな彼。

いま、うちのリビングで住人の誰よりもくつろいでいる。


はじまりはここ、はっぴーの家。

ここに、たったひとりではるばる関東から夜行バスに乗って、自主留学!しにきた中学生男子がいるという。はっぴーの家の一部屋を借りて、はっぴーの日常に溶け込みお仕事を手伝いながら、お父さんに渡された生活費がなくなるまでずっと滞在しているつもりだそう。

なにそれ!すごすぎ。

がぜん興味が湧いたわたしは、出逢ってすぐに彼と友達になった。

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Kくん。仮名にしとくわな。

人懐っこくて、でもほんとは陰キャで、おうちのベッドが一番好きなんやって。それやのにあのカオスな環境に溶け込んで、爆音でテレビを観てるじいさんたちに挟まれた部屋で、毎晩背中を丸めてなんとか眠ってるらしい。

はじめてうちに遊びに来た日、彼はリビングのソファにすっぽりおさまって、そのまま夜まで起きなかった。

よっぽど疲れてんねんなあ。

そう思ったわたしは無理に起こさず、そのまま好きなだけ彼を寝かせて晩ごはんを作った。

そうしてようやく目覚めた彼と、今頃!?っていう時間にごはんを食べて、ひたすらお互いの世界や考え方について語った。

14歳。

そうあらためて聞くと、ええ!?って驚いてしまうけれど、どんな話題でもすべてひとりの人間としてしっかりした考察と意見を返してくれる彼は、年齢を感じさせない風格を既に備えていた。

そしてわたしたちはそれぞれ、魂と魂とで会話をしていたので、特に彼の歳を意識することもなかった。

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それから、いろんなところへ彼と出かけた。

近所の公園、はっぴーの家のイベント、湊川の市場、山登り。

どこへ行ってもニコニコと柔和な笑顔で、わたしのおかしいところをズバズバ指摘しながら、どこへでもついてきてくれる彼がいつのまにか大好きになっていた。

それを見て、面白くなかったのがうちの娘。

人一倍独占欲の強い彼女は、わたしの懐にするりと入ってきた彼に、はじめはもうそれはそれは敵対心全開だった。

背中の毛を逆立ててシャー!って威嚇している野良猫みたいに、敵意むき出しで自分に向かってくる娘に対して、いつものようにただニコニコ、飄々と相対する彼。

何度も何度も揉めながら、どうやったのかは知らないが、いつのまにか彼は娘をすっかり手なずけていた。

出逢って数ヶ月、いまとなっては意気投合しすぎのふたりはとっても楽しそうだ。

末っ子の彼と、ひとりっ子の娘。

欲しかったポジションの相手をそれぞれ見つけたのか、すっかり兄妹みたいに打ち解けてじゃれて騒いでいる。

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彼のすごいところは、鋭い質問や細かい観察力でひとを見極め、確実に自分の中でそれらをデータとして取り込んでいくという能力だ。

彼の行動を見ていると、はっぴーの家で様々な大人たちに囲まれて、人々の特性や思考のパターンなどをインプットし、そのデータをもとに分析した彼なりの行動力学のようなものを確立していっているようなのだ。

それはもうかなり的確で、その考察を聞いているだけで飽きないし、単純に人間としての彼の厚みのようなものは、もう既にわたしには超えられないのではないか?というくらい広く深くて、面白い。

Kくんはそんなわたしのことを逆に面白がっているようで、一緒にいるとあらゆることに対していつも問いを投げかけてくる。

それに対してひとつひとつじっくり考えながら答えていくと、それまで見えていなかった自分のことがあらわになって、思いがけない気づきがたくさんあるのだ。


昨夜も3人で鍋をつつきながら、たくさんのことを話した。

14歳と10歳の間で飛び交う話題は、学校のこと、社会のこと、政治のこと、など深いテーマばかり。あげくの果てには社会主義と資本主義について、そのへんの大人には足元にも及ばないほどの深い考察に裏付けられた議論が繰り広げられていた。

ふたりの話を聞いていると本当に、大人ってなんやねん、こどもってなんやねん!って根幹を揺さぶられるような気持ちになる。

彼らはもう個々の人間として成熟していて、大人が思うような非力な存在なんかでは断じてないのだ。

毎日ちゃんと登校して学ぶとか、この先社会の枠に当てはまるかどうか、なんてことは全くどうでもいいことで、どこでも、いつでも、なんでも、吸収し咀嚼し自己の栄養へと変えることのできる彼らを、ただ見守っていればいい。

果てしなくスケールのでかい素地を持っている彼らを信じて、好きなものを好きなように取り込めるような環境だけを整えてあげる、それが少し先を歩いてきたわたしたちにできる唯一のことのような気がしている。

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そうして先に寝てしまった娘を気にしつつ、深夜までKくんといろんな話をした。

家族のこと、社会のこと、自分のこと、お互いの世界を取り巻くたくさんのこと。

引き出し上手な彼は、わたしの過去の失敗談や黒歴史をどんどん掘り返してはゲラゲラ笑っていた。

なんと、彼のお母さんと同い年のわたし。

最近、Kくん以外にも旧友と昔の話をする機会があり、無意識に頭の片隅に追いやっていた自分のクズなエピソードをあれもこれも思い出してきていたわたしは、あまりのひどさに目を背けたくなるのをぐっと我慢し、彼にこれまでのわたしの身に起きた出来事をたくさんたくさん、語った。


子育てをしながらここまできて、いっぱしのおかあさん、になったつもりでいた、いい気なわたし。

大人になるのが偉い!みたいに勘違いしていた、昔のアホなわたし。


いや、オマエそんなたいそうな人間ちゃうやん。

聞かれたらもう穴に入りたいような、クズなエピソードばっかりの女やないかい。


神様か仏様か知らんけど、空の上から見ている誰かにそうツッコまれているような気がした。


そやんな。

どんだけ取り繕ったかて、クズはクズなんや。

クズなりにオモロく、関西人らしく笑いを取りながら、生きていったらええんちゃう。


あ、もう既にそれ、前に自分でも言うてたわ。

また忘れるとこやった。

すぐカッコつけて、自分のことばじゃないことばでごまかして、都合の悪いことは忘れようとする自分に言い聞かせなあかんな。


しょせんオマエは、クズなんやて。

クズはクズなりに、たくましく生きてゆけ。


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さんざんサシ飲み(りんごジュースね!)しながら夜中まで話し尽くしたわたしに、Kくんは笑って言った。

「まあ、もしかしたら義理の息子になる可能性もなくはないから。」


ええー!?

あんだけのこと聞いといて、こんな義理のお母さん、嫌じゃない?

そう聞き返したわたしに彼がさらっとこう言った。


「新しいお母さんがヒトミさんでも、まあいいよ。」


うそやん。

なんか…


ありがとう。


え?

アンタらふたりの横で、留袖着てんの?

わたし??


まあ、なくは…ないよな。


けど、やめといた方がええと思うで。ほんまに。

このオカンの、娘やし。

なかなかの、アレでっせ。うん。


でももし、人生そんなオモロいことが起こったらよ。それはそれで、アリやんな。


Kくん、もし、もしも、そうなったらよ。

その時はさ、披露宴では極力呑まんようにするから!


いやー、アンタ絶対無理やろ!!ってゲラゲラ笑う彼の顔が見えたような気がした。



おはなしはつづく。


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